不屈の精神を持ち合わせている男でも、あの時ばかりは精神的に参っていたのかもしれない。8月中旬の2軍鳴尾浜球場。阪神石井大智投手(26)が「僕、厄払いに行った方がいいですかね…」とポツリとつぶやいた日があった。
7月22日に体調不良による「特例2023」の適用を受け、出場選手登録を抹消された。2軍で登板を重ね復活か…と思われた8月8日には、発熱で1軍昇格が見送られた。チームは優勝争いの先頭を走る日々。病み上がりで、キャッチボールを再開したばかりの背番号69が弱気になるのもうなずけた。
それでもプロ3年目の今季、逆境の連続を乗り越えて「最低目標」を超えていった。2年前のオフから「最低でも30試合登板」を掲げていた右腕は、ここまで32試合登板で防御率0・89。5月中旬に「腰痛」で約1カ月の2軍生活、そして7月下旬から8月上旬にかけては2度の体調不良による離脱がありながらも、30試合登板をクリアした。チーム4位の登板数でブルペンに欠かせない存在となっている。
石井には苦しい時、思い出す言葉がある。
「五体満足な野球人生なんかいらないだろ!」
プロ入り前、四国IL・高知入団時の駒田徳広監督(現巨人3軍)に、ハングリー精神を持ち続けることの大切さを説かれてきた。
「駒田さんには何度も言われてきたので。肘なり肩なりをケガして終わったら本望だろうって。そのぐらいの思いでやらないと。腰だって、もう1回ケガして野球ができなくなっても、その時はその時ですよ」
目の前の相手に1球入魂できる理由がここにある。
8月30日のDeNA戦(甲子園)。7回1死満塁のピンチで登板し、無失点で切り抜けた。「火消し」に成功しても、まだまだここからと言わんばかりに、表情はほとんど変わらなかった。現在10試合連続無失点中。厄払いに行く必要もなさそうだ。【阪神担当 中野椋】




