阪神のキャンプ中。見慣れないようでありながら、どこかで見た記憶がある光景があった。一部の投手が、サポーター状のものを利き腕にぐるりと巻いてから投球練習に臨んでいた。

「パルススロー」という機器だ。大谷翔平がエンゼルス時代に使用したことで一気に球界に広まり、阪神も昨季からチームとして正式に取り入れた。

装着して腕を振れば、肘にかかるストレスなどが数値化される。腕のアングル(角度)も分かるため、フォームの再現性、無理なく腕を振れる角度の確認にも有効とされる。

もちろん、複雑で繊細な動きをともなう投手の肩、肘へのストレスがすべて反映されるわけではない。本人の感覚とデータを擦り合わせながらの運用が重要になる。まだ試行段階ではあるが、標準のケアアイテムになっていきそうだ。

阪神ではルーキー5投手がブルペン入りのたびに装着を義務づけられていた。唯一、1軍にいたドラフト2位の椎葉剛投手(21=四国IL・徳島)も例外ではない。肘のすぐ下(前腕部)に巻くため、多少の違和感はあるそうだが、肘の曲げ伸ばしには影響がない。腕を振るたび、即時にデータが取り込まれていく。

その効果かは分からないが、新人の5投手は肩、肘の不調を訴えることなく、最初のキャンプを終えた。入団1年目の1月、2月は新人にとって大きな関門といわれる。慣れない環境でオーバーワークしてしまったり、自分のフォームを見失ったままアピールに走ったり。「張り切りすぎ」防止は今や球界の常識。ここを乗り越えれば、スムーズにプロ生活の軌道に乗れる確率が高まる。

大学時代の全身疲労が尾を引いているドラフト1位の下村海翔投手(21=青学大)に対する厳しい投球制限も、長い目で見れば理にかなっている。

阪神が、編成との両軸に据える「育成」にも密接に関わる部分だ。小さなトライアルではあるが、大事なルーキーを何とか羽ばたかせたいという、球団の強い意図を感じた。【阪神担当=柏原誠】