今季限りで現役引退するオリックスT-岡田外野手(36)は「純朴」という言葉が似合う人間だったと思う。控えめで、言葉少なく、周囲への気遣いはさりげない。生え抜きでもグイグイと引っ張るタイプでもない。ゆえにリーグ3連覇する以前、弱いチーム内でもチャンスで打てない主砲に対して「メンタルが弱いから」と指摘する声も少なくなかった。以前、オリックス担当だった16年には、こんなことがあった。
開幕から絶不調で4月4日に2軍降格。その後ウエスタン・リーグで2本塁打を放ち、同24日に1軍合流した。普通なら、そのまま昇格の流れ。ところが見送りという異例の事態が起きた。当時の福良監督との面談で、T-岡田がこう言ったことが原因だった。
「まだ真っすぐがはじき返せないんです」
何とも弱気。普通なら多少の不安を抱えていても「いけます。任せてください」と意気込むところ。それを正直すぎる告白で、やんわりと固辞した。岡田貴弘という正直な人間性を示すようなエピソードと言える。ちなみにその後は直球を打ち返す練習を重ね、5日後の4月29日に満を持して1軍昇格。同年5月は打率3割5分6厘、9本塁打と大爆発した。自分の状態は、自分が一番よく分かっていたというわけだ。
その1年前の15年も、春先から不振だった。4月16日のソフトバンクとのナイター後に降格を告げられ、翌朝に始発の新幹線に飛び乗った。福岡での2軍戦に出場するためだ。「今までなかった。だけど仕方ない。パニックになっていた。こんなに打てなかったのは初めてなので…」。プロ野球はスキを見せると相手にやられる弱肉強食。そんな世界で、パニックだったと吐露する素直さも、どこか憎めない存在だった。
オフには神戸で、あのイチローに弟子入りして合同自主トレするのが恒例だった時期もあった。17年の年明けのある日。T-岡田の打撃スタイルを、日米通算4367安打の天才はこう評した。
「ホームランバッターだけど、器用だからいろんな球に手が出ちゃうんだな」
狙っている球を待ち、打席でドンと構えればいい。ただ自信のなさが、そうでない打席の凡打につながっていると鋭い分析だった。不器用のススメ。これが、T-岡田に刺さった。「自分でももったいないと感じることはある。練習から意識してやっていきたい。思っていたことを言ってもらえて良かった」。まるで先生の教えを守る小学生のような顔だった。イチローの金言を胸に、新選手会長だったこの年は31本塁打の活躍。自身唯一の全143試合出場を果たしたシーズンとなった。
以前は映画を見ることが趣味の1つだと語っていた。シーズン中も含め、年10回以上も映画館に足を運んでいた。「あんまりラブストーリー系は見ないですね。僕、一番好きなのが、『リアル・スティール』という映画。感動しました」。スクリーンを眺めながら、時には静かに涙を流すこともあったそうだ。野球人口の減少を危惧し、球団主導ではない、珍しいセルフプロデュースの野球教室を開いたこともあった。
気はやさしくて、力持ち-。野球アニメ「ドカベン」のオープニング曲の歌詞にもあったそんなフレーズが、ぴったり似合ったT-岡田。ファンに愛されるだけの実力と人間性が表現された野球人生だった。【オリックス担当=大池和幸】




