甲子園の夜空には上弦の月が輝いていた。もう1週間もすれば、満月になる。満ちていくパワーをしっかりと受け取ったのはソフトバンクだった。劣勢だった。2点を追う8回1死一塁。1番柳田の一振りで振り出しに戻った。阪神石井の外角直球。柳田の真骨頂とも言える強振の流し打ち。打球は左翼ポール際に飛び込んだ。
初戦黒星から3連勝。敵地で「王手」をかけて臨んだ一戦。「山川にもね、打ってもらいたいし、打線は調子がよくなっているからね。気分的には乗ってきているしね。先手を取ってね。1点とかじゃなく、先に2点とか3点を取ってね。そういう形にしたいよね。ただ、(阪神先発の)大竹(の投球に)はまっちゃうとなかなかうまくいかないからね」。球場入りした王球団会長は得意の「先行逃げ切り」の必勝パターンを期待しつつも、大竹攻略の難しさにも言及していた。
王会長がポツリと漏らした不安が的中してしまった。大竹の前に打線は沈黙。4回までパーフェクトに封じられ、6回3安打無得点。思い描いた先行パターンが逆に、2回に先制されると5回には2死一、二塁から4番佐藤輝に2点目の適時打を許しビハインドの展開となってしまった。それでも終盤の粘りは強さの証明だろう。今季は故障禍に悩まされ、思い描いてきたチーム編成は崩れた。近藤、柳田、栗原、周東、今宮…。主力が離脱。さらにこのシリーズではベテラン中村が故障離脱。それでも「若き力」の台頭もあって、リーグ連覇、日本一を達成。延長11回に飛び出した野村の勝ち越し弾は、まさにその象徴と言っていい。
成長を続けた男たちは頼もしかった。同点の9回から登板した新守護神・杉山は2イニングをパーフェクト投球。身長192センチ、体重107キロの大柄な男は言う。「小久保監督が就任時に言われた言葉を大切にしています。『神は細部に宿る』です。だから、僕は今年、ずっと何事も丁寧に丁寧と思ってやってきました」。渾身(こんしん)の19球。背番号40は最高の1勝を手にした。
【ダイエー初年度から取材、ソフトバンク担当=佐竹英治】




