高校野球で注目された「サイン盗み」。彼らが育ってきた中学年代はどうなのだろうか。中学硬式野球のボーイズリーグで今春に全国制覇した京葉ボーイズ(千葉)の関口勝己監督(54)は完全否定派。その理由と現状を語ってもらった。【取材・構成=柏原誠】

京葉ボーイズの関口勝己監督
京葉ボーイズの関口勝己監督

高校と同じように、中学球界でもサイン盗みの行為は存在している。

関口監督 中学でも、二塁に走者がいたら、そういうことはあります。一塁、三塁コーチが口で球種を言うとか。全部ではないですが、ありますね。

シニアリーグと並ぶ中学硬式の最大勢力であるボーイズリーグ。レギュラーの大半は、有力高校に推薦で進学する。今春センバツのベンチ入りを調べると、ボーイズ出身は187人、シニアは153人。2団体だけで全体の約6割を占め、強豪私立では割合がはね上がる。多くの選手は中学1年のクラブ入団の時点で「甲子園」へと続く道を歩み始めている。

関口監督はアマ球界のトップを経験してきた。現役時代はサイン盗みと思われる行為も普通に目にしてきた。それでも今は、かなり強く、選手にマナーの重要性を訴えている。

関口監督 基本はフェアプレー。そんなことやって、上の世界で通用するかといえば、私は違うと思います。今回、優勝はさせていただきましたが、選手のために今後のことを考えると…。そんなことを教えるのは、子どもがかわいそう。私は配球の読み合いを教えています。それで負けたら指導者のせい。対策としてはサインを難しくしたり、捕手の構えを遅らせたり…。

高校野球と同じく「学校の部活」である中学の野球部(軟式)はどうか。マナーに特に厳しいとされる大阪市では、監督や顧問が集う抽選会や、全参加校から1人ずつ集まる審判講習会で必ず、フェアプレー順守を伝えている。「勝つのが目標だが、もっと大事なことを教えてあげてほしい」との言葉が添えられる。他の都道府県でも、近い形で指導がなされる。

ボーイズもシニアも、公式規則の中に「サイン伝達禁止」の文言を入れている。ただ、中体連(日本中学校体育連盟)が統括する学校の部活に対し「外野球」と呼ばれるクラブチームでは指導者ごとに意識の差が生まれてしまう。

関口監督 (一般的に)ボーイズで全国大会に出て(有力高校に)進学して、甲子園を目標にしている。指導者は別にして、選手同士で「やろう」というケースもあるのかも。今のままでは、やったもん勝ち。完全に防ぐには、少しでも怪しい言葉、ジェスチャーをしていたら審判がサッカーのようにイエローカードを出すとか。それくらいしないと変わらないと思います。

甲子園に直結する中学硬式の世界にも、同じように横たわる問題のようだ。

◆関口勝己(せきぐち・かつみ)1965年(昭40)4月13日、栃木県足利市生まれ。小山では甲子園出場なし。明大2年から遊撃レギュラー。故・島岡吉郎監督の最後の教え子。NTT関東(現NTT東日本)では日本代表にも選出。NTT東日本コーチを経て、11年に京葉ボーイズ総監督。15年から監督。全国大会優勝2度、準優勝1度。今月、156チームが参加した関東大会も優勝。