「佐井 in USA」と題し、メジャー取材から帰国した佐井陽介記者(35)がベースボールの潮流をルポする。

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昨今の大リーグには「データに支配されすぎ」といった批判がつきまとう。大胆な内野シフトに打ち方に…。各部門で数字が人を動かし、野球偏差値の高さ、感性がないがしろにされがちだ。最低でも進塁打がほしい場面で下位打線の右打者が引っ張って打ち上げ、ガックリした回数は1度や2度ではなかった。

ただ「フライボール革命」のスイングだけに目を向ければ、芽が出ずにくすぶっている選手を変貌させる可能性も秘めている。

ドジャースのクリス・テーラー(撮影・菅敏)
ドジャースのクリス・テーラー(撮影・菅敏)

ドジャース前田 こっちの選手はスイングを変えて変わった選手が多い。ドジャースのマンシーもテーラーもそう。覚醒した選手がすごくいる。今までメジャーに上がれなかった選手が今、メジャーで40発ぐらい打っている。そう考えると、日本でもフライボール革命が絶対ダメだとは限らない。合う、合わないはあるでしょうけど、突然1軍で30、40本打つ人が出てくるかもしれないとは思います。

28歳マンシーは16年までメジャー通算96試合出場で通算打率1割9分5厘、5本塁打。17年はメジャー出場すらなかったが、18年はドジャースで打率2割6分3厘、35本塁打を記録した。日本でもスイングを変えることで殻を破る選手が現れても、不思議ではない。

ドジャースのマックス・マンシー(撮影・菅敏)
ドジャースのマックス・マンシー(撮影・菅敏)

では、「革命」を実践する際の注意点は? スポーツ界のデータ解析で知られる「データスタジアム」のベースボール事業部・田上健一氏(元阪神)は「単にフライを打つスイングに変えればいいというわけではない」と指摘する。

田上氏 打球速度が上がればバレルゾーンは広がる。極端な話、打球が低くてもレーザービームのような打球であれば、落下することなくスタンドに届く。だから、フライボール革命を取り入れるのであれば、まずは打球速度を上げることに着目した方がいいと思います。スイングスピードを速くするだけでなく、バットのヘッドをかえすタイミングも意識して、打球速度が上がる技術も身につける必要があると思います。

もともとパワーのある米国のマイナーリーガーであれば、スイングの軌道を変えるだけで劇的な変化も見込める。だが日本人選手の場合、打球速度が伴わなければ、平凡な飛球が増えるだけの可能性もある。まだ非力な小中学生を教える指導者は特に気をつけておきたい点かもしれない。

ドジャース前田は「米国にはおもしろいと思う発想がいっぱいある。でも日本のいいところもある」と力を込めた。要はメリット、デメリットを冷静に分析して引き出しの1つにできるかどうか。「フライボール革命」をベースにして突如ブレークする日本人選手の登場を、楽しみにしたい。(この項おわり)【佐井陽介】

◆佐井陽介(さい・ようすけ)兵庫県生まれ。06年入社。07年から計11年間阪神担当。13年3月はWBC担当、14年は広島担当。メジャー取材は、08年春のドジャース黒田以来11年ぶり。