全国高校野球選手権大会が6日、甲子園で開幕した。101回目を迎えた夏は、どんなドラマが待っているのか。さまざまな角度から、球児たちの熱き戦いを追う。

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金足農(秋田)の甲子園準優勝から1年。今年も真夏の楽しみが始まった。

「カナノウ旋風」以降、もっとも実感したことは「影響力」。部員が少ない学校の選手は「金足農は9人しか試合に出ていなかったですから」と力を込める。

エース吉田輝星(現日本ハム)の絶大な存在感に引っ張られてきたナインも「吉田に負けられない」を合言葉に、さまざまな目標に向かって進んでいる。

全日本クラブ選手権出場を決め、再び全国舞台で戦う大友(左)、斎藤(中央)、菊地亮
全日本クラブ選手権出場を決め、再び全国舞台で戦う大友(左)、斎藤(中央)、菊地亮

横浜(神奈川)との3回戦で高校初本塁打を放ち、生物資源科で豚や鶏などを育てていた“生き物係”高橋佑輔(東農大北海道オホーツク)は、母校の監督を目指して教師を夢見ている。「どこに行っても『吉田のカナノウ』って言われる。すごすぎるので仕方ないんですけれど、最近はちょっと悔しいなって思う」。ライバル心も芽生え、レギュラー獲得を狙っている。

準優勝した金足農メンバーの進路
準優勝した金足農メンバーの進路

準優勝メンバー全員が野球を続けている。バセドー病の影響で裏方転向を考えていた佐々木大夢も、日体大でプレー継続を決断した。吉田輝や高橋ら多くのメンバーが中学総体後、硬式に慣れるために所属していた秋田北シニアは今夏、初の日本選手権出場を決めた。お守りはカナノウナインのお土産「甲子園の土」。未来の甲子園球児を目指す後輩たちの全国舞台にもつながった。

大船渡(岩手)の最速163キロ右腕・佐々木朗希投手(3年)も影響を受けた1人。「カナノウさんのように地元を盛り上げたい」。故郷への思いは“吉田魂”を引き継いでいる。投球フォームは、吉田輝が荒々しいタカなら佐々木は足を高く上げる優雅な鶴。だがメリハリを参考に140キロ前後のキレある直球も磨き「ギアを上げた」「脱力して」など“吉田輝語録”も活用していた。

今夏の岩手大会取材中、少年たちが球場外でキャッチボールをしていた。「オレは朗希、僕は吉田」と言いながら投球フォームをまねる姿に、仕事を忘れ思わず見入ってしまった。身近なスターを教科書に技術や精神を学び、万人が引き込まれていく高校野球。ドーム開催や球数制限など健康を重視する案も出ているが、灼熱(しゃくねつ)の中で全試合を投げ抜いた吉田の姿に魅力はあった。完遂するための準備や努力も、社会で生きる強さの縮図かな、とも思う。101回目の夏、心を引きつける新ヒーローを探そう。(敬称略)【鎌田直秀】