今夏の甲子園で、中学野球で名をはせた名将たちが存在感を見せている。軟式と硬式、中学と高校。多くの違いがある中で、経験を生かして結果を出す姿に興味を覚えた。

仙台育英(宮城)の4番打者として2本塁打で8強進出に貢献した小濃(おのう)塁外野手(3年)は軟式出身。福島の浅川中では目立ったチーム成績を残せなかったが、強豪の仙台育英を選んだ。楽天イーグルスジュニアで一緒だった大栄陽斗投手(3年)がいた影響もある。

腕に覚えがあったが、入学時の衝撃は忘れない。「野球の質が違うと思った。そつがない。今(高校で)やっている野球を中学でもやっていたそうです」。仙台育英野球部には系列の秀光中教校出身の選手が多い。彼らのプレーの質の高さは、際立って見えた。

秀光中教校は軟式野球で全国屈指の強豪。17年12月まで率いていたのが、現在は高校の監督である須江航監督(36)だ。中学軟式の野球とはどんなものなのか。

仙台育英・須江航監督
仙台育英・須江航監督

「1つのサインのかけ間違い、指示ミスが致命的になります。試合で2回はミスできない。圧倒的に投手有利。全国大会では5安打くらいしか打てない。攻撃ではいかに走者三塁の状況を作るか。常にのど元にナイフを突き立てられているような感覚ですね」

守りを固めて、攻撃で少ないチャンスを生かす。中学野球の“奥義”を持ち込みつつ、それだけでは甲子園では勝てないと判断。「全国との距離を測って、細かさと融合させました」と今年は強打をプラスした好チームに仕上げた。

須江監督と仙台育英で同級生だった岡山学芸館・佐藤貴博監督(36)は「すごく小さいパソコンにかちゃかちゃデータを入れて。勝利に直結するからやっていると思う。彼はそういう世界でやってきた。中学は高校以上に、監督の采配が占める割合が大きいですから」と刺激を受けている。

同じくデータを重視しているのが、明石商(兵庫)を春夏連続で4強入りに導いた狭間善徳監督(55)。明徳義塾中(高知)で全国優勝4度を誇る。宇部鴻城(山口)戦の8回に1死三塁からヒットエンドランをかけて同点に追いついた。軟式野球ではメジャーな作戦。中学時代は多用しなかったが、経歴が色濃く反映された奇襲だった。

明石商・狭間善徳監督
明石商・狭間善徳監督

相手の研究を重ねて、確率の高い作戦を選ぶ。「うちはどの引き出しを引いてもいいように練習してきている」。バントや走塁技術の高さが、試合運びの安定感を生み出す。

明徳義塾の高校のコーチも経験しており、長年タッグを組んだ同校の馬淵史郎監督(63)は「あいつは熱心。今どき、ああいう指導者は少なくなった。明石商じゃなくても強くしていたと思う」と指導力を高く評価。個性的な監督たちが多彩な「野球」を見せてくれるのも甲子園の醍醐味(だいごみ)だ。【柏原誠】