「埼玉県民の日」の11月14日、大宮公園球場で「彩の国フェスティバル」が行われて、もう24年目になる。高校野球を引退した3年生の球児が、県内の中学球児200人に技術指導を行う。

指導の合間に時間ができた。中学生が「質問タイムにしましょう! 好きな食べ物は何ですか?」「ギョーザかな」。今春甲子園出場の春日部共栄・村田賢一投手(3年)が即答すると、中学生たちがなぜか「お~っ」と歓声を上げた。これも貴重な交流だ。

96年に始まり、草創期は小学生が対象だった。高校生と中学生の技術交流には細かな規則がある。県高野連専務理事の小山友清(59)は「中学生との交流では、埼玉が全国のパイオニアだったと思います」と振り返る。投攻守に分かれ、夏の大会で8強入りした約30人の3年生が、培った技を惜しみなく伝授する。

14日、「彩の国フェスティバル」で中学生たちに囲まれながら144キロの速球を披露した春日部共栄・村田賢一投手
14日、「彩の国フェスティバル」で中学生たちに囲まれながら144キロの速球を披露した春日部共栄・村田賢一投手

小山は「まだ完成型ではありません」と言う。昼休み、スタンドで休憩する中学生たちがグラウンドを凝視する。県内高校野球部の女子部員10人がノックを受けている。小山がマイクを握り、女子中学生球児たちに呼びかける。

「女子野球部がある高校を目指しますか? 野球部のマネジャーをやりますか? 男子と交ざってプレーしますか? いろいろな選択の道があると思いますが、ぜひ野球に関わってほしいと思います」

越谷東の女子部員・島田華(3年)が「県営球場で野球をする夢がかないました」と感激する中、夏の埼玉を5連覇中の花咲徳栄監督・岩井隆(49)が球場の会議室に入った。中学生たちに問う。「高校野球のすごさって何だと思う?」。

中学生たちは顔を見合わせるも答えが出ない。「歴史上、100年以上続いている大会はそうはないんです」と岩井がざわつきを抑えた。「甲子園では必ずヒーローが生まれる。あそこには不思議な力がある。勝った、負けたではない。感動を求めている人が多い。そういうところに入っていくんだということを認識してほしい」と真剣に伝え、少年たちの目を輝かせた。

14日、「彩の国フェスティバル」で中学生たちに講義を行う花咲徳栄・岩井隆監督。左は春日部共栄・植竹幸一野球部長
14日、「彩の国フェスティバル」で中学生たちに講義を行う花咲徳栄・岩井隆監督。左は春日部共栄・植竹幸一野球部長

高校野球に本気で打ち込む当事者の熱っぽい指導は、5時間近くに及んだ。どこまで伝わったのだろう。横にいた中学生のアンケート記入が目に入った。

高校で野球を続けますか?→いいえ。

なぜ?→他にやりたいことがあるから。

野球人口を増やす-。そう簡単なテーマではないが、愚直に取り組む人は日本中にたくさんいる。閉会式で、県高野連常務理事の神谷進(55)がマイクで呼びかけた。「2年後、この大宮球場で皆さんと会えることを楽しみに待っています」。(敬称略=この項おわり)【金子真仁】