12年3月、センバツ甲子園で三重に敗れ甲子園の砂を集める鳥取城北ナイン
12年3月、センバツ甲子園で三重に敗れ甲子園の砂を集める鳥取城北ナイン

聞き慣れた下馬評をこのセンバツで、覆したかった。鳥取城北の山木博之監督(44)は言う。「春だけじゃない、夏もずっと勝ってない。だめですよね、これじゃ。(勝つ)イメージをつけていきたい」。鳥取県勢の春は、08年の八頭(1-0宇都宮南)を最後に勝ち星がない。甲子園での春夏通算成績は57勝101敗。大きく負け越し、夏は5年連続初戦敗退中だ。

鳥取城北の甲子園戦績
鳥取城北の甲子園戦績

同校は春夏合計6度の甲子園出場も、初戦突破は1度だけ。大半の試合をロースコアで落とした。全国の壁を越えるため、突き詰めてきたのが打力アップだ。「10-0でやりたい。今、東北(の代表校)も攻撃がすごい。山陰だけ置いていかれているようで悔しくて」。甲子園に出るたび、打ち勝つことの難しさも必要性も痛感してきた。

昨秋誕生した新チームは、選手個々の意識づけを徹底。そしてセンバツ切符をかけた中国大会準決勝で、創志学園(岡山)相手に目指す野球を体現した。打力で圧倒して13-6のコールド勝ち。吉田貫汰主将(2年)は「1人1人がつなぐ意識を持てた」と言い、指揮官も「打って打たれて鳥取県勢にない野球ができた」と振り返る。昨秋の公式戦は8試合で98安打。さあ、全国でも鳥取の印象を変えるぞ…。だが、自信を持って乗り込むはずだった春の聖地は夢と消えた。

鳥取城北・山木博之監督
鳥取城北・山木博之監督

山陰地区のレベルアップは難航している。昨秋の鳥取大会はベンチ入り上限の20人に満たない学校が多く、隣県の島根も同基準を満たしたのは39校中14校。過疎化に部員不足。県外への流出も響く。この春も、山陰地区から実績ある中学生が、関西や関東の甲子園常連校に進学する。「うちも他県から来るけど、少ないところから行かなくてもいいんじゃないか。鳥取県の子は鳥取県にとどまってほしい」(山木監督)。昨夏の県大会参加は全国最少の23校。最多だった愛知県の188校との開きは激しい。簡単ではないが、県内でプレーすれば甲子園に出場できる可能性は他県よりは高い。目指す場所はみな同じ。それでも流出は止まらない。「うちが自力で頑張ることで、風を変えたいなあと、ずっと思っているんですよね」。甲子園で勝ち進むことが、地元の子どもへのメッセージになる。

04年と05年の夏「雪国ハンディ」と言われ続けた北海道の駒大苫小牧が2連覇。10年夏には「離島のハンディ」と言われた沖縄の興南が春夏連覇を達成した。先人たちが逆境を乗り越えた今、「山陰のハンディ」を覆す。仕切り直しの夏へ、そんな野球を目指していく。【望月千草】