史上初の「中止」の決断は賢明だった。19日に開幕するはずだった第92回選抜高校野球大会。主催者が苦渋の決断で中止会見を行った11日から2週間になろうとしている。新型コロナウイルスは世界中で感染が拡大。甲子園周辺の兵庫、大阪でも感染者数は増え、20日からの3連休は大阪~兵庫間の往来自粛要請も出た。たとえ無観客でも、全国から球児たちが集まれる状況ではなかった。

11日、中止を決定し会見する日本高等学校野球連盟・八田会長(右)
11日、中止を決定し会見する日本高等学校野球連盟・八田会長(右)

「中止」で思わぬ事態も起きている。ある学校では、センバツ出場のために集めた寄付の返還を求める声が多く集まっている。だが、高野連の「救済策」で甲子園に行く場合は、その寄付金が必要になるため、対応に悩んでいるという。

「救済策」とは日本高野連の八田英二会長(71)が11日の中止会見で「何らかの形で甲子園に来ていただきたい。あるいは甲子園の土を踏ませてあげたい」と明言した出場32校への特別措置のこと。主催者はコロナウイルスが終息し、出場校の意向も聞いた上で考えると説明していた。だが、感染拡大の状況が続き、具体的な話は進んでいない。

天理の中村良二監督(51)は「指導者は、何とか甲子園で試合をさせてあげたいとみんな思っている。1試合だけでもいい」と話す。県岐阜商の鍛治舎巧監督(68)も「夏に入場行進だけとか、30分練習するだけとかでは…。親善試合という形でいいから甲子園で試合をさせてあげたい」と試合を望んでいる。

だが中止会見の翌日、高野連関係者は「(新たに)甲子園球場の借用も難しい。一堂に会するのも難しい」と苦しい状況を明かした。例えば32校が1試合ずつ戦うと仮定すると、1日4試合で4日間、甲子園を確保しなければならない。阪神の試合以外にも、大学野球などの予定が入っている。秋やオフシーズン、来年となれば最上級生は引退。センバツの救済策なので、今回背番号をつけるはずだった18人で試合をするのが望ましいが、甲子園でのプレーは現実的ではなくなってきている。

明石商の狭間善徳監督(55)は「ないものと思っている」と、選手たちの気持ちを夏へと向けさせている。センバツ中止決定後、部活動禁止で、いまだ練習を再開できていない学校もある。出場32校の中でチーム状況の差が広がっている。春の各都道府県大会も中止や延期が決まるなど、センバツ以外にもコロナウイルスの影響は出ている。「救済策」の答えはなかなか見つからない。【石橋隆雄】