例年の162試合から60試合に短縮され、新型コロナウイルスの影響を大きく受けた昨年のメジャーリーグ。厳戒態勢の中でもそれぞれが夢を実現し、幸せを手に入れた。全米で引き続き感染拡大が続く中、コロナ禍2年目のシーズンに臨む。

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ドジャース中島陽介アスレチックトレーナー(50)は昨季、選手の状態を管理するチームスタッフとして、チームの32年ぶりのワールドシリーズ制覇に貢献した。コロナ禍での異質な20年シーズン。「唾をはくのがうまくなりました」。終わってみれば笑顔で振り返ることもできたが、どこか緊張感の漂う現場の空気感を肌で感じていた。

「ウイルスにかかると、皆に迷惑がかかる。2週間、チームを離れないといけないから、選手もスタッフもすごく気を使っていた」

レギュラーシーズン中、ウイルス検査は選手と同様に1日おき。プレーオフ(PO)1週間前からは毎日行われ、そのたびに唾を採取した。日常は激変し、遠征先でも異様な光景を目にした。8月、ジャイアンツ戦でカリフォルニア州サンフランシスコへ到着すると「どこも(お店が)開いてなかったくらい、ゴーストタウンって感じ。怖かった。人が誰も歩いていない」。住民や観光客が行き交うような活気は消えていた。

シーズンが進むにつれ、制限も厳しくなった。遠征先のホテルでは「缶詰め状態だった。最初はウーバーイーツもOKだったけど、途中からダメになって…」。許可されたのは球団から用意された箱に入った食事のみで、当然、自分が食べたいものは選べなかった。

POでは地区シリーズからテキサス州アーリントンに約3週間、滞在した。グラウンド外でのケアも任され「選手の家族の1人から『虫歯ができて痛くて仕方ない』って言われて、特別にMLBが用意した車で歯医者まで行かせたこともあった。ウーバーとか使えないから(配車の)調整もしないといけなかった」。アクシデントにも臨機応変に対応する必要があった。

制限がある中、時には気分転換も行った。遠征先で外出や会食は禁じられていたため、「皆でワインを持っていって、テキサス遠征には80本くらいワインを持っていったんだけど、3週間後には全部なくなった。それしかやることなくて(笑い)」。滞在するホテルのパティオなど、換気された空間で仲間と飲みながら語り合ったこともあった。

経験したことのない、異様な環境の中で乗り切った20年シーズン。米国では、新規感染者が依然として1日15万人前後を数える。今季も引き続き目に見えないウイルスとの闘いが続く。選手や家族を守り、支える役割に徹する覚悟は変わりない。【斎藤庸裕】(つづく)