第93回選抜高校野球大会が19日に開幕する。2年ぶりに行われる大会を「帰ってきたセンバツ」と題し、さまざまな角度から大会終了まで取り上げる。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、新様式で開催される甲子園。グラウンド外にも、それぞれに思いを抱えて見つめる目がある。

野球部員へ、サプライズプレゼントの応援動画を撮影。熱い応援エールを送った常総学院吹奏楽部(撮影・保坂淑子)
野球部員へ、サプライズプレゼントの応援動画を撮影。熱い応援エールを送った常総学院吹奏楽部(撮影・保坂淑子)

甲子園へ届け、吹奏楽部のエール-。全国大会常連の常総学院(茨城)吹奏楽部は、14日に野球部へのサプライズ応援動画を撮影し、プレゼントDVDを製作した。

新型コロナ感染拡大防止の観点から、今春のセンバツは甲子園での吹奏楽応援が禁止になった。攻撃時に、事前録音した演奏を球場内のスピーカーで流すことは認められたが、録音できるのは音源のみ。声は入れることが出来ない。そこで今回は、出場予定のベンチ入りメンバー18人に好きな応援歌を事前アンケート。それを基に個人コールを作成し、特別アレンジで演奏して収録した。エースの秋本璃空(りく)投手(2年)用は「トレイントレイン」の曲に合わせ「♪優勝の夢をみさせてくれよ りく どこまでも りく輝け りく いつまでも」と替え歌を吹き込んだ。

甲子園で直接エールは送れなくとも応援する気持ちは変わらない。部員87人で午前9時から約5時間収録。演奏は音を重ねるごとに迫力を増していった。

野球部に何かしたい-。3月、吹奏楽部の3年生から声が上がった。選手とクラスメートの部員もおり、日ごろから交流は盛ん。昨年12月27日に行われた吹奏楽部の特別演奏会には、秋本のほか、数選手が鑑賞に訪れたという。部長の田所千央さん(2年)は「感謝の気持ちを表したかった。少しでも、選手たちに寄り添った演奏で、モチベーションを上げてくれたらと思います」。

選手のために、という思いが演奏の力を増す。片山章顧問は「野球応援は、部員1人1人の気持ちが選手たちに向いている。気持ちのこもった演奏になるんです」と感謝とリスペクトを感じている。稲葉悠さん(2年)は「野球部のみんなは休み時間でも野球の本を読んだり、データを見たり。いつも頑張っている」と、日々の努力を目の当たりにしている。結果を出してほしいという願いが、力強い音に込められている。

野球部と吹奏楽部には、深い縁がある。吹奏楽部が創部された1983年の翌年に野球部監督に木内幸男元監督(享年89)が就任。「野球の応援を強くするための吹奏楽部にしてほしい」とリクエストされた。「野球部を追い越す吹奏楽部になろう」と、切磋琢磨(せっさたくま)し、今や、常総学院を代表する部活に成長した。

野球部の前監督、佐々木力氏(54)は「(木内監督が取手二監督時代の)84年のセンバツに出場した時は、わずか7人の応援の試合もあって。木内監督にとっては、応援がどれだけ力になるか。分かっていたんでしょうね」と振り返る。その後、春夏合わせ16回の甲子園出場を果たした木内元監督は、大きくきれいな音色で選手のプレーを後押ししてくれる吹奏楽部をグラウンドから眺めては「今日もたくさんきてくれたな」と目を細めていたという。

ともに歩んできた野球部と吹奏楽部。スタンドで演奏は出来なくても、思いを込めたDVDで心はひとつ。野球部、5年ぶりの甲子園での躍動を力強く後押しする。【保坂淑子】

応援動画の収録の様子は日刊スポーツYouTube公式チャンネルで見られます>>