得点圏に走者が進むと、甲子園に「ジョックロック」が響き渡った。準々決勝・明豊(大分)-智弁学園(奈良)戦。名物のチャンステーマに演奏が切り替わると、応援席のテンションは一気に上がった。

明豊対中京大中京 応援席にあいさつを終え、引きあげる中京大中京ナイン(撮影・上山淳一)
明豊対中京大中京 応援席にあいさつを終え、引きあげる中京大中京ナイン(撮影・上山淳一)

コロナの影響で今大会はブラスバンドの生演奏はない。事前に収録された楽曲が、スタンド最上部に設置されているスピーカーから流れるが、グラウンドの状況に合わせて演奏しているかのような錯覚を覚える。各校の吹奏楽部が演奏した10曲の音源を巧みに操るのは、SNSなどで「甲子園DJ」との呼び名がついた阪神甲子園球場のスタッフ。事前に大会本部に提出された、曲を流すタイミングをまとめたリストに合わせ、スタンドを盛り上げる。

きっと緊張感のある難しい操作。しかし、その“技”が選手を、そして応援団も鼓舞してくれる。1回戦の智弁学園-大阪桐蔭戦。智弁学園は「ジョックロック」が流れている間に、相手投手の2暴投などで3点を奪った。アルプスで野球部の控え選手と並んで応援する吹奏楽部の山口瑞月さん(2年)は「応援している側も気持ちが盛り上がって、録音の音を聞いて自分の中で吹いているところを想像しながら応援しています」と言った。金管楽器のユーホニウムを担当。普段は演奏している際にメガホンは持てないが「いつもと違う形で応援できるのも、また楽しいです」と笑った。

球場で演奏できないからこその工夫と風景もある。常総学院(茨城)のスタンドで太鼓をたたいていたのは男子ソフトボール部。人数の少ない応援団をサポートしている。川本陽也部長(3年)は、家で音源を聞いてリズムを体にたたき込み「実際に球場で聞くと迫力があって、リズムを取るのは大変だけど楽しい」。応援団の吉溪晶弥団長(3年)は「吹奏楽とチアと応援団と、みんなで一体感を持って応援できています」と胸を張っていた。

中京大中京(愛知)のアルプスでは、得点時に流れる「アイスマン」で見事に手拍子がそろう。録音時に、球場での響き方を考えて、より音を長めに伸ばすなどアレンジしたという。吹奏楽部加藤あずみ部長(3年)は、準々決勝の東海大菅生戦(東京)で今大会初めて甲子園で応援。「思っていたよりも迫力があって、音が届いているんだなと実感できてうれしい」と喜んだ。

たとえアルプスで演奏できなくとも「応援したい」という気持ちは変わらない。今大会から生まれた“新しい応援様式”も、甲子園の風景として刻まれる。【保坂恭子】