WBCに挑む侍ジャパンのメンバー30人が決定した。連載「侍の宝刀」で、30人の選手が持つ武器やストロングポイントにスポットを当てる。

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安打の延長が本塁打。そんな考えがある。一方で西武山川穂高内野手(31)には持論がある。決して否定ではない。「ホームランは狙って打つものだと思います」。WBCでも揺るがない信念で打つ。

「ホームラン狙い、って言ったらたたかれるんですよね。言葉ってめちゃくちゃ難しい。記事ではそんな長く書いてくれないので」と笑う。とことん振り込んだ後、丁寧に説明してくれた山川の真意はこうだ。

フリー打撃で快音を響かせる山川。後方左は岡本(撮影・垰建太)
フリー打撃で快音を響かせる山川。後方左は岡本(撮影・垰建太)

「一番良いスイングをして一番良い当たり方をしたらホームランになるんですよね、野球って。たぶん間違いなくて、一番良い当たり方をしてライト前ヒットに行くことってなくて。前から、来た球をバットの芯付近に一番きれいに当たった時って、バックスクリーンのホームランになるんですよ。これが100点のバッティングだとしたら、まずは100点を目指すじゃないですか。100点を目指した上で50点だったのか60点だったのかが決まってくるんですけど、じゃあ、打席に入る時にヒットとホームランどっちがうれしいのっていう話で。どっちが点入るのっていう。当たり前にホームランじゃないですか。なんで50点くらい目指して打席入るのっていうのを正直、思います。ヒット狙いで行く方が、ミートがしやすいから結果的にホームランになりやすいって言う人もいます。僕はミート(の意識)が先に入っちゃうと、打球が上がらないんですよ。芯のどこでもいいから、強く振りにいった方がホームランになるので、ホームラン狙いです」

若きスラッガー候補として時にもがき苦しみ、やがて本物になった男の理論はすがすがしい。このオフは風船を使って腹圧を高めながら、構えるグリップ位置を定めるルーティンを身につけた。「決まっていないと気持ち悪い」という手の位置が決まると同時に、基盤の尻からも違和感が消える。「尻が入ることでセンターから左中間右中間の間に飛びやすくなると思います」。痛めていた足首も戻り、理想のアーチにより近づく環境を得た。

「体が痛くない限りはもろもろ整っているので、高い成績が出る確率のほうが高くなる…でしょう」

やや慎重に言葉を使いながらも、行間の端々から自信がにじみ出る。

「この前亡くなった門田(博光)さん。僕、大好きなんですよ。おっしゃる通り。軽く振って飛ぶわけないじゃないですか」

証明のバックスクリーン弾で、世界も自分も震えさせる。【金子真仁】