WBCに挑む侍ジャパンのメンバー30人が決定した。連載「侍の宝刀」で、30人の選手が持つ武器やストロングポイントにスポットを当てる。

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オリックス宇田川優希投手(24)はブレークした昨年、絶対的な火消し役として君臨した。突出していたのは三振を奪う能力だ。

19日、ブルペンで投球練習をする宇田川
19日、ブルペンで投球練習をする宇田川

日本シリーズ第4戦が象徴的だった。1分け2敗で迎え、負けたら王手をかけられる大一番。1-0の5回1死三塁で出番はやってきた。先発山岡に代わってマウンドへ。三塁走者は俊足の塩見。打球がフィールドに飛べば1点が入る可能性が高い状況だった。

宇田川は山崎、山田を連続で三振にしとめ、ピンチを切り抜けた。そのまま1-0の無失点リレーで、シリーズ初勝利。宇田川の火消しが逆転日本一の起点になった。中嶋監督は「あの場面、三振を取るなら宇田川」と明確な意図を持って起用したことを明かした。シーズンの奪三振率は12・9。ほしい場面で確実に三振を取った。

2種類のフォークが武器になった。1つは空振りを取るためのフォーク。150キロ台後半の直球と似た軌道から地面をたたくように大きく落ちる。もう1つが落差の小さい140キロ台のフォーク。昨年のシーズン中、フォークの使い手である平野佳を参考にして覚醒した。「フォークをカウント球、ストライクを取りにいく球としても使えることが分かった」と身近な大先輩をヒントにした。

絶対にバットに当てさせたくない山崎には大きなフォークを連発して、最後は狙い通りに空振りさせた。山田に対しては速球で押し込んでから、最後は小さなフォークを高めから落として見逃し三振にした。

このスタイルを可能にするのは、山田すら押し込んだ快速球があってこそ。その命綱が揺らいでいた。WBC球を握った際の違和感がぬぐえず、直球の威力が半減した。キャンプ序盤、「調整遅れ」が大きく取り沙汰された。手元への意識ばかりが先行し、土台となる本来のフォームを見失った。フィットネスの遅れも目立つ結果になった。

中垣巡回ヘッドコーチや代表でもコーチを務める厚沢投手コーチが付きっきりで修正に着手。昨季、育成から支配下に上がったころと同じように、下半身主導の体重移動を反復。何とか昨年に近い状態に戻して、代表合宿に合流した。

昨年7月までは育成選手で、半年後には代表入りという出世物語。侍ジャパンでもピンチ脱出の切り札として起用されるはず。昨年何度も見せたように、流れを呼び込む爆発的な投球が期待される。【柏原誠】