WBCに挑む侍ジャパンのメンバー30人が決定した。連載「侍の宝刀」で、30人の選手が持つ武器やストロングポイントにスポットを当てる。

3日、米国から帰国したレッドソックス吉田
3日、米国から帰国したレッドソックス吉田

前代未聞のWBC参戦となった。吉田正尚外野手(29)は、オリックスからポスティングシステムを利用し、レッドソックスに移籍した。今季はメジャー1年目。新人でWBCの日本代表入りするメジャー選手は、第5回大会にして初。2月のレッドソックスキャンプ地集合時には「今はWBCに気持ちを置いて、そこでベストを尽くす。必死にプレーして、いい報告ができたらなと思う」。この熱い気持ちこそが、吉田の武器だ。

本来なら開幕前は、動くボール、日本の投手より速い平均球速など、メジャーリーグへの適応が必要な時期だ。5年総額9000万ドル(約117億円)という、1年目の日本人野手では史上最大の契約でレッドソックスに加入。ニューヨークと並んで過激なボストンのマスコミから、大きな注目を浴びている。当初、栗山監督は「正尚のために選んじゃいけない」と覚悟を決めていたという。

しかし、吉田は日本代表入りを栗山監督に直訴した。栗山監督は出場希望を聞いても慎重だったが、最終的には翻意した。吉田はレッドソックスにも入団前から希望を伝え、承諾を得ていた。大会中に故障しようものなら、大型契約しているだけに、手厳しいボストンのファンから批判は免れない。どんな状況であれ、日本代表入りする気力と技量がある以上、どうしても譲れない一線だった。

吉田に「侍の心」が芽生えたのは09年だ。15歳の少年は、テレビに映る第2回WBCの決勝・韓国戦にくぎ付けになった。イチローが林昌勇から放った劇的な一打に「その前の川崎さんが凡退して、イチローさんに回ってくるのも師弟関係のストーリーがあるような気がしたんですよ」と心に焼き付けた。あれから14年。山本由伸、宮城大弥、宇田川優希らオリックス時代の後輩とともに、自らがその舞台に立つ。

選球眼を含めた打力に魅力が詰まっている。昨年まで2度の首位打者を含め、6年連続で打率3割以上を残した。最高出塁率のタイトルを2度獲得し、通算では4割2分0厘5毛。オリックス時代のイチロー(4割2分0厘8毛)と、ほぼ同じ数値をマークしている。それでいて長打率も高く、6年連続で5割を超え。両者を合わせたOPSは、昨季まで2年連続で外国人打者を抑えてリーグ1位だった。

世界の大舞台でも実力を発揮してきた。19年のプレミア12では優勝に貢献。21年の東京オリンピックでは、山田(ヤクルト)と並んでチームトップの7安打、打率3割5分。打線をけん引し、金メダル獲得の原動力となった。メジャーにも認められた世界基準の快速スイングで、頂点をつかみ取る。【斎藤直樹】

吉田の主な国際大会成績
吉田の主な国際大会成績