8月13日のヤクルト戦。その5回裏、梅野が死球を受けた。当たった箇所、ボールの跳ね返り、梅野のもん絶の顔…。これはヤバい。ベンチの監督、岡田彰布も覚悟した。
のちに骨折で、今季絶望かの結果報告があったが、試合は続く。岡田は坂本を代走から守備につけた。そして7回、その坂本がタイムリーを放ち、なおチャンスの場面。ここで加点すればダメを押せる重要な局面で、木浪の代打に送ったのが渡辺諒だった(結果は併殺打)。
点を取りにいくには、現状、状態のいい原口でいくのが常道のはず。それをせず、岡田は渡辺諒を指名した。これは梅野死球が大いに影響している。イニングは7回。残りはまだある。原口を起用して、のちに坂本に何かアクシデントが起きれば、捕手がいなくなる。だから岡田は最後の最後まで原口をベンチに置いたのだ(結局、原口の出番はなし)。梅野の退場で、岡田はその時の最善の起用法を繰り出したわけである。
梅野の長期離脱は痛い。ただし、これも野球。アクシデントが起きた時の対応策が問われる。それをクリアしたチームに、極度の落ち込みは訪れない。
「そうやな。まあ、普通にやって、ここまで来た感じやしな」。これは数日前、岡田から聞いた肉声である。ここまで順調にきたら、話の中身も、少しは緩みがうかがえる…と探ったが、ダメだった。
「残り試合、5割でいけば80勝に届くけどな」
「そうなれば勝率6割をクリアか」
この程度の話で、「もういける!」とか「まあ大丈夫やろ」とかの安心安全の話はなし。ここまで慎重な岡田は初めてかもしれない。
ただひとつ、興味を示した数字があった。「これよ、これを見てよ。この4は、やっぱり大きいで」と「4」という数字にこだわっていた。
ここまで(8月14日現在)、阪神は着実に白星を重ね、勝てなくても、負けない数字が4試合。そう、引き分けが4試合ある。これはリーグ最多で、両リーグでもロッテと並ぶ最多の数。これを岡田は大きく、強く評価している。「そら勝つに越したことはないわ。でも勝てない時もある。そんな競った展開で、負けるのではなく、引き分けに持ち込む。これが価値あるもんなんよ。何せ、順位を争うのは勝率なんやから。上にいるチームにとって引き分けは勝ちに等しい。だからオレはこの4引き分けを、うれしく思っている」。
2年前の2021年シーズン。コロナ禍によりプロ野球に特例が施された。その中のひとつが延長なしの9回打ち切り。これにより、引き分け試合が増えると予測されたが、想像以上の多さになった。
これによって最終的な順位に反映。ヤクルトが引き分け効果を手にし、逆に阪神が引き分け数の差で負けた。そんなシーズンだった。
今シーズンはそんな特例は撤廃され、延長12回制で引き分けは少なくなる。そんな中で4試合ではあるが、リーグ最多のドロー試合を数える阪神。首位に立っている限り、これからもドロー=勝利という数字上の計算が成り立つ。
「引き分けの中身もそうだし、みんな、諦めずに戦っているからよ。負けたって、たった1敗。でもそれを負けずに分けるわけやから、値打ちがあるわな。シーズンが終わった時、あの時の引き分けが…と振り返る時があるかも。要するに、負けない野球がいかに尊いかということよ」。
現在、2位広島とは8ゲーム差(8月14日現在)。安全圏に入ったと思うのだが、岡田からは一切、浮かれた話はなかった。2008年の13ゲーム差を返された経験は、もちろん生き続けている。「そんな心配せんでもええなら、楽なんやけど」。最後の最後、岡田の本音がチラリと出た。【内匠宏幸】
(敬称略)




