昨年のドラフト会議。阪神は育成を含め、8選手を指名した。高校、大学、社会人、独立リーグからで、ポジションの内訳は投手が5人。内野手が2人で、外野手が1人…。ここで漏れたポジション、それが捕手だった。

捕手難といわれる昨今のプロ球界。どうしてもキャリアが重要とされるポジションだけに、どこの球団も毎年1人は捕手を指名。育成に重きをおいてきた。阪神も同様だったが、今回は指名を見送った。

さてさて2024年シーズンの正捕手はどちらになるのか。新人捕手を獲得しなかったのも、現状、実力派の2捕手がいるから、しばらくは大丈夫。そういう計算が球団にはあるのだろう。

梅野と坂本。監督の岡田彰布は、2人の起用法については語っていない。1年前は「主戦捕手は梅野!」と早々と明言。「連続してゴールデングラブを取っているキャッチャーやで」と実績を重視。開幕から、その通りの起用を続けた。

しかし坂本を軽んじたわけではない。岡田が描いたのは「4対2の法則」。6人の先発ローテーション投手に、4人には梅野。2人には坂本。6試合をそういう割合で捕手起用するプランがあり、それを実現した。「青柳、西勇とかこれまで投げてきたピッチャーには梅野。大竹、村上といった新しい投手には坂本。こういう割り振りで進めていく」。事前に聞いていた通りの戦略で、結果につなげた。

まずは梅野ありき、のプランが崩れたのはアクシデントから。梅野が死球で骨折。長期離脱を余儀なくされ、坂本にかかる負担が大きくなった。「坂本で大丈夫か?」「梅野離脱で大ピンチ」といった声が渦巻く中、坂本の奮闘、踏ん張りは素晴らしかった。

岡田は坂本の捕手術をこう表現した。「想定外のリード。そうやな、ヤンチャなキャッチャーという感じやな。例えばインサイド、インサイドと続けて、次は外という場面でも続けて内を要求するリード。これがハマったわな」。どちらかといえば外中心のオーソドックスな配球を求める梅野とは対照的。それが大竹、村上のピッチングにマッチし、2投手の2桁勝利を導いたといえる。

リーグ優勝、日本一になり、坂本はゴールデングラブ賞に輝いた。あの「4対2の法則」からは想像もつかぬ躍進だったわけで、当然、今年は2人の立ち位置にも変化が出る。そのため岡田は明らかにしない。どちらがメイン捕手なのか? 「4対2の法則」はなくなり、がぜん、坂本の起用試合が増える…というのが大方の見方である。

キャッチャーは打てなくてもいい。これが岡田のポジション別の持論である。捕手はリード、インサイドワーク。これが正妻を決めるポイント。そこで評価を上げた坂本が今季は逆転正妻? もちろん梅野の逆襲も見ものである。

これほど実力拮抗(きっこう)の2捕手を抱えるチームはそうはない。2人が競い合っている間に、若い第3捕手を育ててれば、十分に今後は間に合う。少なくても今後5年は坂本、梅野でまかなえるという計算が立つ。

今シーズン、ほぼほぼポジションが決まっている阪神。注目はレフトが誰に? だったが、捕手も「どっちが?」。勢いの坂本か、巻き返す梅野か。岡田が正妻に指名するのは、果たして…。【内匠宏幸】(敬称略)