きっとピリついているだろうと思っていた。8月21日の京セラドーム大阪。ヤクルト戦の試合前の練習。ベンチの奥から監督、岡田彰布が姿を見せた。そのまま外野に向かうのが通例の動きだが、この日は違った。
「何しに来たん?」と僕は声をかけられた。そこにベテラン記者が加わり、岡田はベンチから動かなかった。時折、笑みを浮かべ、話は高校野球、アマチュア野球などに移った。
その目は打撃ケージに注がれていた。話しながら、目だけは一点を直視していた。打ち始めた渡辺諒のバットから快音が響く。それも打ち損じなしの内容。「いま、一番調子がいいのは渡辺や。代打の1番手やからな」。そういって、岡田は目を細めた。
先に書いたように、高校野球の話題になった時、監督はこんな印象を漏らした。「高校生でも150キロを超える球を投げる投手がいっぱいいてる。でもな、それでも空振りが取れていない」。投高打低の傾向が叫ばれるプロ球界だが、高校野球は少し違った。ほとんどのゲームをテレビ観戦した岡田は「いい投手も多いけど、バッターの進歩もすごいで。150キロ越えを空振りしないんやから」。
練習終了までグラウンドに出ることなく、ベンチから見守った監督に、ある種の開き直りを感じた。先の高校野球の話のように、ここからは「打撃力」が勝敗を左右する。その思いを打撃コーチに伝えている。試合前の野手ミーティング。ここで確認されたのは、早い段階での積極打法だった。ストライクを取りにきた甘めの球を見逃すな。初球、2球目。これを打ちにいけ。これまでにない指示がいきわたった。
昨年から阪神打線といえば四球。このイメージが定着した。もちろん今年も四球は重要な要素であるが、今年ここまで、あまりに見過ぎて、後手に回る傾向になっていた。甘い球を見逃し、追い込まれてボール球に手を出す。この悪循環を踏まえ、ベンチは積極打法の号令をかけたのだった。
そのゲーム、1回裏を振り返る。1番近本は3球目を打ち一塁ゴロ。2番中野は5球目を右翼への二塁打。3番森下は2球目を右飛。そして4番佐藤輝は1球目をレフトに二塁打で1点。続く大山も初球をレフトに2ラン。クリーンアップの早めの仕掛けでマークした3点だったし、ベンチと打席の意思統一がなされた先制攻撃になった。
2回裏の3点攻撃も同様だった。木浪が4球目を二塁打。梅野が1球目に送りバントして、西勇も1球目に二塁打。近本が5球目を安打し、中野が初球タイムリー。森下も3球目にタイムリーと方針通りの攻撃になった。
いよいよ終盤。球界の定説で、ここからは疲労、消耗によって投手がヘバり、バッターが優位に立つという季節になる。少し投手力に陰りが見え始めた阪神だが、それを補い、ここまでの借りを返すような打線の好循環。数字的には厳しいままだが、必ず見せ場はつくる。そんな気概にあふれたヤクルト戦。ヤクルト相手だから…という声も飛ぶだろうが、タイガースの最後の大暴れに、正直、期待感は大!【内匠宏幸】(敬称略)(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「岡田の野球よ」)







