ソフトバンクのドラフト1位・前田悠伍投手(18=大阪桐蔭)のブルペン初投げ(立ち投げ)を見た。捕手の後ろで前田のフォーム、球筋を見て、素材としては一級品であることを、この目で確認できた。ちょうど、同じタイミングで21年のドラフト1位、3年目・風間球打投手(20=明桜)も捕手を座らせて全力投球していた。

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これもちょっとした巡り合わせだろう。3年前のドラフト1位と、ルーキーが同じブルペンで投げる。いずれも高卒ドラフト1位。

率直な感想を言えば、前田のボールが、その時に投げていた4人の投手の中で1番良かった。立ち投げで、私の見た印象では7~8割の力の入れ具合だと思うが、投げ方と、ベース板での強さが抜群だった。

立ち投げの場合は、ブルペンの傾斜を利用して、フォームをしっかり意識しながらのピッチングになる。捕手の後ろには小久保監督、藤本前監督など首脳陣がこぞって集まっている。バランスを崩したり、フォームがばらつく可能性もある中、前田の精度の高さはピカ一だった。

投げ始めと、投げ終わりで、バランスがまったく崩れない。フォロースルーまで含め、しっかり体をコントロールして、再現性の高い投げ方をしている。となれば、ボールにも力がしっかり伝わり、スピンの効いたいいボールが連続する。

この日は20球。最後の5球だけ倉野投手コーチが声をかけたが、それまでとまったく同じリズムで投げきり、いいイメージで初投げを終えた。藤本前監督に聞くと、ソフトバンクではルーキーの投手にはよほどのアクシデントなどでも無い限り、1年目はノータッチという育成方針だということだった。

このクールで20球の立ち投げというのも、予定通りということだった。投げ終わった時にほんの二言、三言、言葉を交わしたが、しっかりした印象だ。「順調に来ています」と答えた感じは、自分の考えをしっかり持ち、考えて調整していることをうかがわせた。

1球投げるごとに、右腕の使い方を意識しながら、バランスに気を付けているように見えた。周囲に影響されず、自分で考えたり、修正したり、アドバイスを求めたりできるのだろう。そういう部分でも能力の高さを感じた。

体は細い。テレビや甲子園で見た印象では、もっと大きく感じたが、まだ体は高校生。筋肉量が少ないということだった。プロでの食事、トレーニングでしっかり体作りに励めば問題ないだろう。下半身が大きくなってくれば、さらにパワーが付き、ボールのキレは増す。この年代ではトップの素材であることは、この日の立ち投げではっきりした。

風間は指のかかった時のボールは目を見張るものがある。それが続かないのが、直面している課題だろう。カーブは縦割れ、スライダーには自信がありそうだった。フォークはワンバウンドが多く、さらに制球が求められる。

ソフトバンクの投手陣は層が厚く、後からどんどん若くて、才能あふれる投手が出てくる。その中で、自分を見失わずに、1歩ずつステップアップできるか。焦ったり、無理して何でもやろうとすると、自分の良さを見失ってしまう。

前田はこのままのペースで、初キャンプを有意義なものにしてほしい。そして、風間は苦しい思いもしたはずだが、納得いくボールが続くよう、まずは自分の体をしっかりコントロールすることを心がけてほしい。(日刊スポーツ評論家)

ブルペンでプロ初投球を行ったソフトバンク前田悠(撮影・岩下翔太)
ブルペンでプロ初投球を行ったソフトバンク前田悠(撮影・岩下翔太)