4日に行われた第99回全国高校野球選手権の組み合わせ抽選会後、二松学舎大付(東東京)永井敦士外野手(3年)は「いい場面、チャンスで、チームが欲しい時に1本を打ちたいです」と話した。高校通算47本塁打をマークするなど、長打力が魅力。本塁打への思いを聞かれたが、永井は「狙っても、いい結果は生まれないです。とにかく、勝ちたいだけです」と力強く答えた。

 その言葉を聞き、球界屈指のアーチストの言葉を思い出した。本塁打王6回の西武中村剛也内野手(33)。自身の本塁打で勝った試合で、主砲は「勝てて良かったです」と繰り返す。その一方で、本塁打を打っても、試合に負ければ「意味がないです」と口にする。「ホームランを打つためじゃなく、試合に勝つためにやってるんやから」。この言葉の原点は、高校時代の苦い記憶が関係する。

 3年夏の大阪大会、中村は計6本塁打を放ちながら、甲子園出場を逃した。高校1年秋に1号をマークし、約2年弱で高校通算83本塁打を記録。記憶に残る本塁打を聞かれても「ないなぁ」と淡々と振り返るが、あの夏、決勝戦で上宮太子に敗れた一戦は、心に刻まれる。巨人坂本勇人内野手(28)も3年夏の青森大会の決勝戦で敗退。坂本もまた、最後のシーンを今も記憶する。

 10日に大会3日目が終了し、11校が甲子園を去った。永井は「このチームメートと一緒に野球ができるのは夏が最後。だから少しでも長く、このチームで野球がやりたいです」と話した。チームのために、勝利のために。甲子園には届かなかったが、西武中村、巨人坂本も思いは同じだった。必死に駆け抜けた夏は、野球人生のターニングポイントになる。【久保賢吾】