令和初のプロ野球ドラフト会議では107人の若者が、12球団からそれぞれ指名を受けた。

郷土の期待を一身に背負い、華やかな世界へ飛び込む。複数の関連資料を読み込んでみると、今年は10人近くが「地元初」ということになるようだ。

石川・かほく市からは、一気に2人のプロが誕生する。ヤクルト1位の奥川恭伸投手と巨人5位の山瀬慎之助捕手(ともに3年)だ。金沢市と能登半島の中間の街で生まれ育った2人は、小学校からバッテリーを組み、今夏は地元の星稜(石川)で甲子園準優勝。この上ないストーリーだ。

「地元初になるみたいですね」。意識して過ごしてきたのはオリックス5位の国際武道大・勝俣翔貴内野手(4年=東海大菅生)。神奈川・箱根町出身。箱根駅伝のコースも近い。「箱根も子どもが減ってきている。自分がプロになって、いい影響になれば」といい顔で話していた。

「地元初なんですか?」と驚いたのは、広島4位の花咲徳栄(埼玉)・韮沢雄也内野手(3年)。新潟・魚沼市出身。郷土愛はちゃんと持っている。祖父母が丹念に育てたコシヒカリで大きくなった。広島の猛練習でもっと強くなる。

楽天1位の大阪ガス・小深田大翔内野手(24=近大)は兵庫・佐用町出身。西武3位のBC武蔵・松岡洸希投手(19=桶川西)は埼玉・桶川市出身だ。巨人6位の酒田南(山形)・伊藤海斗外野手は山形・遊佐町が、ソフトバンク育成6位の千原台(熊本)・荒木翔太内野手は熊本・玉東町が、オリックス育成7位の仙台大・佐藤優悟外野手(4年=柴田)は宮城・蔵王町が出身地。それぞれ「地元初」のプロになる。

難しいのは「生まれ」と「出身地」の定義だ。ロッテ3位の国士舘大・高部瑛斗外野手(4年=東海大甲府)に出身地を問うと「神奈川県の寒川町です」。ただし、幼少期に埼玉・毛呂山町に引っ越しているそう。毛呂山はプロ輩出があるが、寒川はない。一方、別の場所で生まれ、寒川で育った元プロならいるようだ。ますます難しい。

プロ未輩出の市町村も900近くある。例えば、意外にも青森・八戸市(人口約22万人)はプロ輩出記録が見当たらない。市内にある八戸学院光星や八戸工大一からはあんなに多いのに…。愛知・小牧市(同約15万人)も同様だ。

かたや、驚異的な輩出率の町もある。人口約1万3000人の鹿児島・大崎町からは阪神福留、広島松山、西武榎田、西武赤田1軍打撃コーチなど豪華メンバーが輩出され、今回のドラフトでも三菱日立パワーシステムズの浜屋将太投手(21=樟南)が西武に2位指名された。

大隅半島の付け根、大都市と接しているわけでもない小さな町から、なぜこんなにもプロ野球選手が!? 謎は深まり、これはもはや「潜入」するしかないだろうか。【金子真仁】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)