「法政大学、1番サード武川」。優しさの中に芯のある声が神宮球場の秋空に響いた。8日に行われた東京6大学秋季リーグ戦、法大-東大の2回戦で場内アナウンスを担当したのは、法大・上中咲葵(さき)マネジャー(3年=西武文理)。ロッテのアナウンスを33年間担当し、今季での引退を決意した谷保恵美さん(57)をほうふつとさせる伸びのある声の持ち主。声質が驚くほど似ていることを伝えると「よく言われます。とてもうれしいです。今日は1回もかまなかったので、よかったです!」と笑顔で話してくれた。2年秋にフレッシュトーナメント(新人戦)でアナウンスを担当し、3年からはリーグ戦も任されるようになった。

西武文理(埼玉)でも野球部マネジャーを務めた。20年の3年時にはコロナ禍のため夏の選手権大会が中止。県の独自大会が実施され、メットライフドーム(現ベルーナドーム)で行われた狭山ケ丘-正智深谷の準決勝でアナウンスを担当。その経験は、大きな思い出として胸に残っている。

実は、メットライフドームは特別な場所だ。元西武の外野手で、現在は西武「若獅子寮」の寮長を務める上中吉成氏(54)を父に持つ生粋の西武ファン。仕事に真摯(しんし)に向き合う姿勢を見て育ち「いつもとてもストイックで、私もやるからにはストイックにと思っています」と、毎日の発声練習は欠かさない。「苦ではないんです」と朗らかな表情で言う。

アナウンサー志望で、谷保さんファンでもある。「何度もロッテの試合のアナウンスを聞き直して、研究しています」。伸びやかな声を、もっとたくさんの人に届けてほしい。【保坂恭子】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)