負けていて言うのもなんだがヒヤヒヤさせる。0-6の9回に阪神は一挙5点を返した。一気に逆転するのか。DeNAは大丈夫なのか。余計な心配? が頭をよぎったけれど最後は山崎康晃が代打・鳥谷敬を左飛に打ち取り、1点差の試合が終わった。
最後まで面白くしたのがルーキー木浪聖也だった。糸井嘉男の3ランで3点差に迫り、なお2死二、三塁のチャンス。ここで右前に会心の当たりを放ち、2者を迎え入れた。
「打ったのはツーシームですかね。でもストレートかツーシームとか考えていたらヒットにはなっていないでしょうね。山崎さんからヒットを打つのは初めてです」。木浪は冷静に振り返った。
試合前、少しだけ驚くことがあった。DeNAの一塁側ベンチ裏にいると通りかかった山崎が声を掛けてきたのだ。過去に会話を交わしたのは1度だけにも関わらず。それは木浪に関する話だった。
木浪は亜大で山崎の2年後輩だ。そんなこともあって4月10日、甲子園での試合前、木浪をどう見ているのかを山崎に聞いてみた。オープン戦で光った木浪だが開幕後は苦しみ、当時まだ無安打の状況だった。
「木浪は本当に優しい男なんですよ。ムードというか話し方からしても優しくて。大学時代もそんなことを言われてましたけど」。だから、ちょっとだけ心配…というニュアンスだった。その日にこのコラムでも書いている。
そして、この日、山崎が話し掛けてきた内容はこうだった。「木浪、すごいですね」。あれから調子を上げてきた後輩を喜んだのだが、こちらとその会話をしたのをちゃんと覚えているのも大したもの。やはり、ただ者ではない。
木浪のことも書く。山崎の“見立て”について伝えると「そんなことないですよ。やりますよ。打ちます」。その時点でまだ実現していなかった対戦を心待ちにしていた。その後、この日までにチャンスは2度あった。しかし4月23日が中飛、同25日が三振。安打は出ていなかったが3度目の対戦となったこの日、自身の言葉を証明した。
打っては2安打をマーク。遊撃の守備ではいいプレーも失策もあった。「勝たないと意味がないので」。試合後、木浪はそう引き締めた。新人ながらすっかりセンターラインの一員になってきた様子である。(敬称略)