のちに球史を振り返ったとき、これも「10・19」の1項目に入れてもらえるだろうか。藤浪晋太郎が阪神球団最速の162キロをマーク。虎党、野球ファンを大いに喜ばせた。

「10・19」。言うまでもなく近鉄-ロッテの死闘ダブルヘッダーが行われた88年10月19日を言う。同じ日、伝統ある阪急ブレーブスが現在のオリックスに身売りされることが発表された日でもある。プロ野球の歴史に残る日付に、藤浪はいい仕事をしたと思う。

残念ながら、それを見守ったファンは3593人。甲子園とは思えない少なさだ。17日の雨天中止による月曜の予備日。事前に決まっていない日程に加え、一気に寒くなったとあって無理もないところか。

「今季はコロナの関係で年間指定席もありませんから。予備日も土曜が中止ですぐ次の月曜に入るという形なので仕方ないですね」。球団関係者もそう話し、あきらめの境地だ。

本当に異例としか言いようのないシーズンになった。特に阪神は藤浪が「プロ野球コロナ第1号」となったように、ここに至るまで何かと関連してしまっている。そこに加え、皮肉とも思えることが決定した。

今月30日から横浜スタジアムで「新技術による感染防止策を講じた上で球場定員の8割程度を動員する実証実験」を始めることを、新型コロナウイルス感染症対策分科会が了承した。

長ったらしいが要するに今後を見据えて、満員の状況でイベントを行っても大丈夫かどうか新しい機器を使って判断しようということだ。その実験に東京オリンピック(五輪)の野球会場でもある横浜スタジアムが選ばれた。そのことはすでに報道されているが、相手が阪神なのは一般メディアではほとんど取り上げられなかった。

ある意味、もっともコロナに苦しまされた阪神がそこで登場するのか…とも思うのだが、なにしろ集客という面ではリーグでトップクラス。実験にはもってこいということだろう。ひょっとして、その辺りでそろそろ藤浪が先発復帰するのでは…と、これはあくまでも勝手な推測だ。

批判されることも多いが声援も多い。それが阪神だ。だからこそ“消化試合”はできないはず。どんなときでも足を運んでくれるファンのためにも、藤浪を始めナインは最後まで熱いゲームを見せなければならないし、来季への期待を持たせる戦いをしてほしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対ヤクルト 162キロのストレートを投げた藤浪は3者三振にしとめベンチに引き揚げる(撮影・上田博志
阪神対ヤクルト 162キロのストレートを投げた藤浪は3者三振にしとめベンチに引き揚げる(撮影・上田博志