「勝ってやめるチャンス」をもらったではないか。阪神4年目の指揮を執ることが正式に決まった矢野燿大にそんな言葉を掛けたい。思い出すのは約1年前。2シーズンを終えた20年12月、矢野に話を聞いたときのことだ。今年の元日インタビューなので読んでいただいた方もいるかもしれない。時期的に、いささか“常識外れ”な質問をした。

勝負の3年目、優勝はもちろん、監督自身の行く末もテーマになるはず。闘将・星野仙一は勝った年に自ら引いた。そう言って矢野の覚悟を聞いてみたのだ。それにこう返した。

「勝ってやめるのが一番いいなと思ってます。それは。現状、長く監督をやりたいとは思っていなくて。監督に止まりたいという思いが、僕の中で、むっちゃ強いかと言われればそうでもないんです」

勝ってやめるのが理想なら勝たなくてはやめられない? そう質問を重ねたときはこう言った。

「それは分からないですね。終わって『クソッ』と思っていてもやめろって言われることもあり得ますし。最終的に僕が判断することではないですから。精いっぱい今の仕事をやり切るだけ。あとは球団の判断。それをノーと言えるものではない」

その今季は惜しくも2年連続の2位に終わった。当然「クソッ」と思っているだろう。同時に心身とも相当、疲弊していると想像する。その矢野に対して球団が下した判断は「続投」。1年契約だから厳しいという見方もあるが複数年契約などあってない世界だ。

このコラムでも用兵、采配など、せんえつながら指摘してきた。そんな中、阪神がかなり強かったのも事実だ。3年連続Aクラス、12球団最多77勝の実績を残した。しかしCSで巨人の前に敗退し「辞めろ!」という厳しい声も虎党の中にはあるかもしれない。しかしそうやって監督のクビを次々と代えてきた結果はどうだったか。

反省し、見直さなければならない点は多いだろう。課題もある。矢野自身「成長が必要」と言う。課題が解消されなければ、きわめて苦しい4年目になる可能性は高い。しかし悲願の優勝を果たせば「もう十分やりましたので」と“勇退”するチャンスもあるのだ。もちろん、その場合は続投機会もあるはずだけれど。ハッキリしているのは負けた悔しさは勝って晴らすしかないということだ。(敬称略)