首位攻防戦第1ラウンドは阪神が快勝だ。10連勝で波に乗ってきた広島を下し、1日で首位奪還。ルーキー・森下翔太の4安打という活躍もあって真夏の甲子園に詰めかけた虎党は大満足の結果だろう。
そんな試合ので1人、阪神ベンチで涙を流していた男がいた。前川右京、20歳だ。「6番右翼」のスタメンで出場しながら、3打席3三振。7回の守備で交代。ベンチに戻った前川は思わず涙をこぼしてしまう。隣の木浪聖也に何ごとか励まされていたが、チームが快勝の中、異例の光景として際立つことになった。
前川の母校・智弁学園はこの日、奈良県代表として甲子園出場を決めた。そんな晴れの日に、その智弁学園の先輩・村上頌樹が投げている。6月29日中日戦(甲子園)では村上が先発し、前川が適時打を放って勝った試合もあった。そこに加え、ライバルとも言うべき立場の森下が暴れまくっている。この試合も打ちたい。そう思うだろう。だから余計に悔しかったのではないか。
ベンチのうしろに下がって涙を拭けばいいのかもしれない。だが、そこは若手。意味なく、うしろに行くことはできない。そもそも、そんな余裕もなかったのか。思わずこぼした涙が全国に流れることになった。
この涙を見て、どう表現するのが正しいのか。独断と偏見で言わせてもらって、こういうのは大好きである。打てなければ悔しいのは当たり前。くそ! という思いがあふれ出るのは自然だろう。「仕方ない」と割り切るのもクールでいいのかもしれないが、悔し涙は若者の特権だと思う。
「なんで泣いたん? そんなんで泣いてたらあかんやろ。汗やろ、暑いから」。前川右京の状況を伝え聞いた指揮官・岡田彰布は苦笑し、そう話した。指揮官の立場からすれば、それも当然のコメントだろう。
「そんなことがあったんですか。知らなかった。でも想像できますわ。負けず嫌いですから、前川は」。そう話したのは智弁学園を甲子園に導いた監督・小坂将商だ。教え子2人が先発した試合は見ていなかったそうだが岡田の反応を伝えると、こう言った。「そこはボクも同じです」-。
「もっと強くならないといけないと思います」。虎番記者に対し、前川もそう話した。こんなときに談話を求められるのもプロのつらさだろう。その通り、前川よ、強くなれ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)




