指揮官・岡田彰布は佐藤輝明に不満げだった。虎番記者の記事でしっかり読んでいただきたいが0-0の9回、無死一、三塁という好機で佐藤輝が空振り三振に倒れたのが原因だ。

それで思い出した。昨季から考えていた“ある点”を2月のキャンプ中、岡田に聞いたときのことだ。「監督は大山悠輔、佐藤輝明には絶対バントさせないですね。なんでですか?」。そう聞いたのである。

高校野球じゃあるまいし。プロで4、5番にバントて。当たり前やろ。そう思った方もいるかもしれない。だが実際、そういう場面は過去にあった。例えば昨季で巨人監督を引いた原辰徳は岡本和真にもバントをさせた。それをこう説明したこともある。

「だって、それがイヤなら巨人軍でなく個人軍になってしまうでしょ」。軽妙な言い回しでチームに尽くす精神を強調した。「チームのために」というのは岡田も同じだ。だが岡田は主軸にバントをさせない。

リーグ制覇した昨季、阪神打線の記録した犠打は「106」。これはDeNAと並んで2位タイだ。(最多はヤクルトの115)。犠打だけでなくエンドランなど多彩な攻撃を見せただけに極端に多いわけではないが、それでも送るべきところでは送ったことを示す数字だ。しかし繰り返すが大山、佐藤輝はゼロ。なぜか。答えはこうだった。

「何の意味があんの。それに」

チームのために、という岡田だが、それには「自分の役割を果たせ」と続く。犠打をする選手は犠打を決めろ、かえす選手はかえせということだ。シンプルだが、そこにはプロとしての思考もあるはず。

オープン戦連敗が続いていたとき、岡田はこう言っていた。「(バンテリン)ドームからよ。ドームからはサインも出す」。実戦モード。そういうことだ。この日は7回に左腕・島本浩也のワンポイントから加治屋蓮につなぐ継投も見せた。

だからこその9回である。中日の守護神マルティネスから森下翔太が二塁打を放ち、無死二塁。そして犠打のサインが出ない大山は左前打した。無死一、三塁。ここで佐藤輝だ。安打でなくとも犠飛でも内野ゴロでもいい。かえすのが仕事だ。そこで三振。だから怒る。シンプルなのだ。

「三振は何も起きない。それだけのことや」。その言葉の意味はなかなかに深いのである。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

中日対阪神 9回表阪神無死一、三塁、空振り三振に倒れる佐藤輝(撮影・前田充)
中日対阪神 9回表阪神無死一、三塁、空振り三振に倒れる佐藤輝(撮影・前田充)