全国でも類を見ない、いきなりの“事実上の決勝戦”だ。昨夏王者で大阪大会初の4連覇を目指す大阪桐蔭と、昨年センバツ準優勝で3季ぶりの甲子園出場を狙う履正社が、初戦の2回戦で激突した。全国で唯一、シード制を導入していない大阪ならではの劇的な組み合わせ。大阪桐蔭が、エース田中誠也投手(3年)の1失点完投で、最強ライバルを退けた。大阪桐蔭OBの西武中村、浅村、森、阪神藤浪らも駆け付けるなど、1万3000人が超高レベルの初戦を観戦した。

 勝利の校歌は、大阪桐蔭が歌った。来秋ドラフトの目玉候補、寺島成輝(2年)を先発に、挑んできた最強ライバルを退けた。例年同様、大会開幕前に舞洲で練習し、試合もした。舞洲の風、グラウンドの性質を体にしみこませて攻守で対応。さらに「投手力は履正社」と言われた戦前予想をエース田中が覆した。

 2回に先制されたが、3回に相手の失策で逆転し、終盤に振り切った。我慢比べを支えたのが、エース田中だった。9回を投げ切り1失点。打っても7回にスクイズ、9回1死一、二塁で試合を決定づける2点二塁打も放った。「この日に照準を合わせていた。まだ初戦。一戦必勝で史上初の大阪4連覇を狙いたい」と滴る汗をぬぐった。

 「指先にまで魂を込めて投げる」。甲子園で、大阪桐蔭史上最悪の完敗となった3月31日の敦賀気比戦。2回途中で10点を失い「自分がすべてを終わらせた」。屈辱の敗戦のすべてを、血と肉にした。「甲子園に戻る。その一心でやってきました」。相手が履正社でも、初戦で野望を閉ざされる訳にはいかなかった。

 いきなり超刺激的なカードだった。大阪大会はシード制を導入していないため、運命のイタズラがおきた。球場は当初の久宝寺から内野スタンドに1万席を備えた舞洲スタジアムに変更された。開放された外野にも立ち見のファンがあふれた。1万3000人が集まり満員札止め。入場制限も出された。舞洲は鉄道路線が走らない人工島にあり、周辺の道路は大渋滞を引き起こした。前日、広島でオールスターに出場したOBも多数、駆け付けた。田中は「きょう(19日)に向けて激励してくれている気がしていた」と、真剣な顔のOBを見て、勇気を得た。異様な空気にも、ナインは勝利に突き進んだ。

 “事実上の決勝戦”と注目された初戦を乗り越えた西谷浩一監督(45)は「難しい試合で嫌だった。ゲームセットになり、ようやくスタートを切った感じ」と胸をなでおろした。