始球式の余韻に浸る間もなく、狙いすましてバットを振った。鹿児島実の1番有村が初回、北海・山本の初球を右前打。相手の暴投で先制のホームを踏むと、その後も勢いは止まらず4安打3得点の活躍で、チームを勝利に導いた。

 「先攻になってうれしかった。すごい人がマウンドに立っていて、緊張が大きすぎたけど、その分(試合が始まって)緊張がほぐれた。王さんのボールは思ったよりも来ていた。一生の思い出になります」

 チームは鹿児島大会では後攻を選び、勝ち進んできた。この日は主将森口がじゃんけんでチョキを出して北海に敗れ、狙っていた後攻を奪われた。だが、有村だけは「王さんの始球式で打席に立てる」と歓迎。北海道大会の映像を見て、初球にストライクを取りにくると確信し、強振した。

 悲願の全国舞台だった。昨夏は鹿児島大会準々決勝で2番手として登板。4失点し、神村学園にコールドで敗れたが、今夏は神村学園と再戦した準決勝で救援に成功し、2年越しでリベンジに成功した。投げても2番手として2回2/3をピシャリ。今春までエースナンバーを背負っていたプライドをマウンドでぶつけた。

 5回には打者14人の猛攻で8安打を放ち、10得点。夏の大会前から毎日、練習後に全員で輪になって正座し、道具磨きを続けることで結束力を高めた。

 終わってみれば18得点の大勝。15-0で勝った10年夏の2回戦、能代商戦で記録した甲子園での最多得点を更新し、鹿児島県勢としても春夏通じて甲子園最多得点。宮下正一監督(42)も「甲子園でビッグイニングは初めて。こんな展開は予想していなかった」と目を丸くした。

 「世界の王」が始球式を務めた直後の開幕戦。鹿児島実ナインがその重みを力に変えた。大舞台で華やかな新記録を打ち立て、学校創立100年の節目を彩った。【福岡吉央】