21世紀枠で春夏通じて初出場の由利工(秋田)が、甲子園優勝の経験もある日大三(東京)に0-5で敗れた。エース右腕佐藤亜蓮(3年)は、4回裏の先頭打者に本塁打を喫して先制を許したが、大量失点を防ぐ粘投。140キロ超の伸びのある直球や今春に習得したカットボールなどで、全国区を証明した。攻撃には課題を残したが、守備は無失策。大きな収穫を秋田へ持ち帰り、次は21世紀枠校としては史上3校目となる春夏連続出場に挑む。

 佐藤亜にとって、夏につながる渾身(こんしん)の1球だった。8回裏2死一塁。134球目は左打者の外角に、思い切り腕を振った。切れ味鋭い直球で空振り三振。初奪三振に右肩を振り下ろして喜びを表現すると、ふうっと大きく息を吐いた。「最後のストレートは一番気持ちを込めて投げた。狙いました。三振をとれたことを自分の励みとして秋田に持ち帰りたい」。昨秋の公式戦奪三振83は、今大会出場投手でトップ。だが、甲子園で勝つためにこだわりは捨てた。新球種のカットボールも駆使し、芯を外すことに重点を置いた新スタイルを貫いた。

 4回の被本塁打は失投。スライダーが甘く入った。イニングの先頭3度を含む5四球も反省。「ホームランは抜けて高めにいったし、その後に1失点したことも精神的にまだまだ甘い」。それでも表情は晴れ晴れ。「負けたんですけれど、初めての甲子園のマウンドは本当に楽しかった。また夏に帰ってきます。土はその時に泣きながら拾います」。21世紀枠出場校の春夏連続出場は、01年の宜野座(沖縄)と10年の山形中央だけ。史上3校目への挑戦が、早くも始まった。

 試合後、深々と頭を下げたスタンドに父であり、由利工野球部OBでもある三男さん(58)の笑顔を見つけた。「野球友達」と呼ぶほど、幼少期からキャッチボール相手。小さかった体を大きくするため、約300グラム前後のステーキは食卓の必需品。兼業で農業も営む父が育てたレタスやトマトなどの新鮮野菜が付け合わせ。「粘り強くなるために、自然薯(じねんじょ)はよく食べました。高校生では一番高い甲子園のマウンドで投げる姿を見てもらえてうれしい」。その時だけは喜びと悔しさが入り交じった涙がほほを伝った。

 今大会から新調したソックスの3本線は(1)味方への感謝(2)相手への感謝(3)周囲への感謝を意味する。選手全員で相手のスタンド、バックネット方向にもあいさつした姿は、聖地で拍手も浴びた。佐藤亜の感謝の粘投には、まだまだ続きがある。【鎌田直秀】