9点差の5回2死三塁、打球が左翼線へフラフラ上がった。4回から出場の身延(山梨)・笠井康生外野手(3年)は、158センチ、57キロの体を必死に投げ出した。「誰かにぶつかってでも、何としてでも取りたかった」。2年生で主将の藤田隼斗遊撃手が間に合う。交錯して倒れると、すぐに藤田が「大丈夫ですか」と気遣った。

この飛球が取れず、適時打ならコールド負けだった。身延の攻撃は9番笠井から。この試合初打席だった。「笠井! 笠井!」が連呼される中で打席へ。「自分の名前を呼ぶ声がすごく聞こえて、すごくうれしかった」。2-1から強振したが遊直。でも、打ってけじめはつけた。やり抜いた。1人だけの3年生として夏まで頑張った。

試合後、泣きながら延長コードを片付け、整列して帰る時も荷物を両手に抱えてチームの仕事を務めた。頭を、泣きそうになった保護者たちが争うように手で触れた。笠井の高校野球が完結した。【井上真】