全国高校野球選手権の代替となる各都道府県の独自大会が6日、全国各地で行われ、奈良では昨秋の明治神宮大会で4強入りした天理が「オール3年生」で優勝した。奈良大付に6-4で競り勝ち、10日開幕の「2020年甲子園高校野球交流試合」に弾みをつけた。和歌山では智弁和歌山が初芝橋本を10-1で下し、4年連続25回目の頂点。今秋ドラフト候補の小林樹斗投手(3年)が自己最速の152キロで試合を締めた。

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苦楽を共にした仲間と、全員で笑い合えた。優勝を決めたマウンドで、天理の3年生20人が人さし指を掲げた。今大会は登録20人全員が最上級生。ベンチ外5人を合わせた25人で奈良の頂点に立った。同校主将で86年全国制覇の中村良二監督(52)は「自分の時よりうれしい。3年生が5年、10年した時に『本当に良かった』と思える大会になった」とうれし涙にくれた。

2回に1点を勝ち越し、なおも1死三塁。1番下林源太主将(3年)はシンカーを捉え、バックスクリーンへ運んだ。今大会3本塁打目の2ランでつかんだ試合の主導権。試合直前、中村監督に「悔しかった時を思い出せ」と促され、全員で目をつぶった。ベンチに3年生と監督のすすり泣きが響いた。新型コロナウイルス感染拡大で出場を決めていたセンバツや、夏の甲子園が中止。無念を乗り越え、この場にたどり着いた。大会中に左肩を脱臼した主将は「絶対勝って『監督を泣かせたろう』と思っていた」と奮い立った。

下級生にも主力はいる。だが、3年生にしか見せられない姿がある。9回2死走者なし。優勝まで「あと1球」の時、三塁を守っていた下林の声が響いた。

「顔! 顔! 氷嚢(ひょうのう)!」

奈良大付・吉岡耶翔(やまと)外野手(3年)が自打球を顔に当てた直後。天理ベンチから控え部員が、吉岡のもとに走った。練習で培った普段の姿が出た。最上級生にこだわった中村監督は「嫌なことがたくさんあったけれど、最後は3年生で戦えて良かった」とほほえんだ。

チームの代替わりの日は決まっている。残すは11日、甲子園交流試合の広島新庄戦。下林は「奈良NO・1のプライドを持ち、1試合を全力で戦う」と誓い、7回から救援の背番号1の庭野夢叶(むうと)投手(3年)も「全国に『天理は強い』と見せたい」と言い切った。今年の天理の軌跡を聖地に残す。【松本航】