高校野球秋季大会のある試合を見てふと思った。「コレ、監督が言っていたことにつながるよな」。走者が二塁にいて左前打だった。緩めのゴロで本塁は間に合わない。だが、左翼手は必死にバックホーム。その間に打者は二塁まで達した。再び得点圏に進塁を許し、失点の引き金になってしまう…。

8月末、元横浜監督の渡辺元智さん(76)にコロナ禍で、長雨にもたたられた夏の甲子園の印象を聞く機会があった。「地方大会からですが、長雨もあって連係プレーを十分にやれなかった。そういう弊害が出ていることも否めません」。渡辺さんが指摘した一例は外野からの送球を捕るカットマンの動きだった。

「カットに入る位置が間違っているケースが見られました。送球間の進塁に関して、私から見れば無駄な点を与えています」

例えば走者が二塁にいて中前打が飛ぶ。本塁突入の状況だ。中堅手は本塁に送球する。だいたい一塁手が中継に入る。「カットマンがマウンド付近にいるか、低い球が来れば、打者走者は簡単に進めない。『高い球が来る』と思ったら、鍛えられたチームは二塁に行く。いいところにカットマンが入っていれば防げる。そういう位置にカットマンが入っていない」と言う。勝ち上がった学校でも徹底されていなかったという。

甲子園で5度優勝し、常に頂点をうかがう名将の見方だ。「野球は点のとりあいっこ。1、2点が非常に貴重になる。そこを突き詰めると、あの2点は必要ないじゃないかとなる」。コロナ禍の高校球児がもっとも影響を受けたのは守備だった。打撃や投球は限られた場所でも最低限、練習できる。だが、守備は、とりわけ、内外野の連係プレーは、何度も広いフィールドで呼吸を合わせないと磨けない。今大会は、長雨で多くの学校が室内練習を強いられた。守備の動きを確認できず、ほころびも目立った。

監督として普段から、ナインに言い聞かせたことがある。「八分でいい。常に八分でやれよ」。甲子園での力み、気負いを計算した上でのアドバイスだった。

「大きい大会に臨むと選手は張り切る。八分と言っても全力の『10』で投げる。その二分を出したいんだな。全力で『12』を出すから突っ込んだりして、ストライクも入らない。そのへんまで考えてやらないと」

冒頭の局面も「八分」を心掛けたら無理に投げないだろう。渡辺さんのメッセージは含蓄がある。秋が来て、冬になる前に書いておきたいことだった。守りをどう鍛えるか。1年後の夏に向けて、球児たちへの宿題である。