新型コロナウイルス感染のため、今夏の第103回全国高校野球選手権石川大会を途中辞退した星稜が14日、金沢市内で3年生の引退試合を行った。意地をぶつけたのは3点を追う9回だ。攻撃前、林和成監督(46)が声を張る。「数々の修羅場を乗り越えてきたお前たち。最後、逆転を見せてくれ!」。出場した27人全員が心を震わせた。

気迫で攻めて無死満塁。小林青空外野手の押し出し四球と中谷大翔捕手の中犠飛で1点差に詰め寄った。だが、1歩及ばず。今秋の北信越大会準優勝で来春センバツ出場が有力な1、2年生に3-4で惜敗。指揮官はエールを送った。

「夏2試合しか戦うことができず、途中で終わったけど、お前たちのやってきたことは間違いじゃない。これもお前たちの人生だ。自分たちで切り開いていく。そこが大事。どんな場面でも、くじけずに、負けずに、しっかりと向き合って、どんな高い壁も乗り越えてほしい」

7月20日。野球部員ら生徒がコロナに感染し、22日の遊学館との準々決勝の出場辞退を決めた。林監督は感染した選手をかばった。「お前が悪いんじゃない」。選手全員に言った。「申し訳ない。ここに来たことを恨まないでくれ。コロナで、誰かが悪いわけではない。人を恨んだり、傷つけることはやめてくれ。天命だ」。指揮官も、選手も、みんな泣いていた。

夏を失い、虚脱感に襲われた。中田達也前主将は「他の高校の試合を見るのが本当につらかった。智弁和歌山が優勝して俺らも全国制覇できたんじゃないか」。4月に招待試合で智弁和歌山に勝っていた。未練がくすぶった。エース野口練投手も「頭が真っ白。数日間、心に穴があいた」と言い「今でも考えると泣きそうでつらい」と続けた。周りに励まされ、なんとか歩みを進めてきた。心に負った傷は、いつかかさぶたになり、糧となるだろう。

この日ヒット1本を全員で喜び、エラー1つを全員で励ました。中田は「最後、今までで一番、楽しく試合ができた。後輩に『林先生を日本一の男にしてくれ』と言いました」と前を向く。来年3月末で退任する林監督は「負けることができなかったことより、いろんなことを学んだと思う」と言った。春夏34度の甲子園出場の名門が味わった喪失感。あの日から117日、誰もが胸を張り、顔を上げていた。【酒井俊作】