6点差をつけた9回のマウンド上で、佐久長聖(長野)の背番号「10」広田龍星投手(3年)は独特な世界観の中にいた。「まだ9回という感覚じゃなくて、まだこれから延長12回まで投げる、そんな気持ちでした」。最後の打者を中飛に打ち取ると、視界が消えた。「何も見えなくなりました。涙があふれてきました」。

投手のやりがいを、ピンチのマウンドでかみしめる。「カッカして投げると、悪いリズムになる。相手の応援を聞きながら、自分の置かれた状況を認識するんです」。9回を6安打1失点。安定の投球で4年ぶり9度目の頂点を決めた。

今春は1回戦で野沢北に敗れ、夏はノーシードからの逆襲だった。「僕はその試合で1イニング5失点。だから、今日の試合でも、みんなに『俺は5点は取られるからもっと援護して』と言ってたんです」。

前夜、なぜか思い立って部屋の掃除をしつつ、大事なグラブを冷蔵庫に入れた。「ちょっと、入れておこうと思っただけだったんですが、気付いたら長い時間入れてしまって。でも、今日は、使い心地がすごく良かったです」。不思議な感性の持ち主だが、甲子園での野心はある。「甲子園では1番をつけてマウンドに立ちたい」。やってくれそうな気がするエースだ。【井上真】

◆佐久長聖 1964年(昭39)創立の私立校。県内初の中高一貫校。高校では1類、2類に分かれ、生徒数は1016人(女子466人)。野球部は64年創部。部員数は148人。甲子園出場は春1度、夏は9度目。主なOBは大迫傑。所在地は佐久市岩村田951。佐藤康校長。