センバツ準優勝の近江が逆転勝ちで、滋賀県勢夏40勝を挙げた。エース山田陽翔(はると)投手(3年)が序盤に鶴岡東(山形)打線に2発を浴びたが、4番としてバットで取り返し、12奪三振で149球完投。自身甲子園9個目の白星をつかんだ。

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勝利への執念を、山田が投球に込めた。6-3の7回1死一、二塁。打席に迎えたのは土屋。初戦で大会1、2号を放った強打者に、山田も試合序盤で1発を食らった。ここで長打を浴びれば、試合は振りだしに戻る。その勝負所で、集中力を最大限に発揮した。

マウンドでゆっくりと首を回し、呼吸を整えた。投じた144キロのストレートはバットの芯で捉えられたが、遊撃・津田がしっかりとバウンドを合わせて併殺打に。全員でピンチを脱した。

「打てていなかったら、投球でもずるずるいっていたと思う」と振り返ったのは、3回。9番渡辺にソロ、土屋に2ランと、あの山田が、まさかの1イニング2被弾。多賀章仁監督(62)も「記憶にない」と首をひねった2被弾が、山田の闘争心に火をつけた。

直後の攻撃で、味方打線が同点に追い付く。なおも無死一、二塁の絶好機で、左翼へ勝ち越しの適時二塁打を放ったのは山田だった。「打ててほっとした」。自分のバットで落ち着きを取り戻したエースは4回以降、無失点で踏ん張った。多賀監督も「(3回の失点から)すぐに取り返せたこと。これがポイントになったと思う」と明かした。

「あの子は甲子園に野球を見に来たことがないんですよ」と父斉(ひとし)さん(46)が明かす。恋い焦がれても「甲子園はそこで野球をするところ。自分がプレーする以外では行きたくない」と言い張った。それだけ、思いは強かった。

エースで4番、主将も務める18歳の夏。1回戦の鳴門戦でも、失点直後に自ら適時打を放ってチームを勝利に導いた。この日は3万7000人の大観衆の前で、駒大苫小牧・田中将大(楽天)、早実・斎藤佑樹(元日本ハム)らを抜き去る甲子園9勝。149球完投したエースは「(この勝利は)日本一という目標の通過点。準備をして次もしっかり投げたい」。22年夏を山田の夏にする。【竹本穂乃加】