連覇を狙う大阪桐蔭が本領発揮で4強に進んだ。エース前田悠伍投手(3年)が1失点完投。初戦から20イニング連続奪三振で東海大菅生(東京)を寄せ付けなかった。西谷浩一監督(53)が「本当の戦い」と位置づけた大会佳境でギアを上げた。報徳学園(兵庫)は9回2死から落球で追いつかれたがタイブレークで仙台育英(宮城)にサヨナラ勝ち。準決勝で大阪桐蔭と激突する。広陵(広島)は真鍋慧内野手(3年)の活躍で4強入りした。

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最後134球目はやはり直球だった。直前に捕手南川が邪飛を落球。だが前田は表情をまるで変えない。場内にも大逆転ドラマを期待する空気など流れない。スピンのきいた134キロにバットは空を切った。

「昨日から気持ちは作っていました。気持ちを入れて1回から9回まで投げることができました」。前田はマウンドで9イニングを支配していた。

普段は使わない緩いカーブも織り交ぜ、ここ一番では力を込めた。「直球が一番よかった」。最速は自己最速にあと1キロの147キロ。西谷監督も「久しぶりに『前田の球』を見た」と感心した。昨秋から走らなかった生命線が復活した。初回から要所で三振を奪い、毎回の11奪三振。初戦の初回から続く毎回奪三振を20イニングまで伸ばした。

西谷監督は、選手にこの一戦の意味を説いていた。「日本一になるための本当の戦いが準々決勝から始まる。新しい大会の初戦と思って戦おう」。歴代、伝えてきた言葉だ。前日の能代松陽(秋田)戦は甲子園で同校史上最少の2安打で、初の1-0勝利。重苦しい雰囲気を一夜で取り払い、チームにギアが入った。

最も重圧がかかっていたのは主将である前田だ。「攻めの投球をしなさい」。監督の意図をくみ、チームを背負う覚悟を刻んだ。昨秋、人生で初の主将に任命された。負けず嫌いの末っ子だがリーダータイプではなかった。だがやるときはやる。中学3年で突然、運動会の応援団長に立候補して周囲を驚かせた。

「1点でも多くとる泥臭さをチームで体現できたことがうれしいです」。圧倒的な技量だけでなく、大阪桐蔭の野球を表現する存在になりつつある。【柏原誠】

◆西谷監督が春31勝 大阪桐蔭・西谷監督がセンバツ通算31勝目。監督勝利数で中村順司監督(PL学園)に並ぶ春の最多勝利となった。春夏通算67勝目は、高嶋仁監督(智弁学園-智弁和歌山)の最多68勝まであと1勝に迫った。

◆西谷監督が母校と対戦 大阪桐蔭・西谷監督が準決勝で母校の報徳学園と当たる。過去の対戦は1度あり、08年夏に7-4で勝っている。