日大三高(以下、三高)の監督から離れた瞬間から、この日を節目としていました。三木監督の夏の初陣です。初戦(3回戦)は強豪国士舘が相手です。恐らく、私の思いと三木監督の心中は同じだったはずです。

目の前には、見えない巨大な壁があります。勝てばその壁は消えうせ、負ければ壁は幾重にも分厚くなります。それは三木監督が乗り越えるべき試練です。

私の気持ちだけを考えれば、責任はなくなった今、楽な気持ちで観戦できると思っていました。それが1回表、2点を先制した直後、気付けば手にはじっとり汗が。急いでタオルで拭きました。

楽に見られるなんて、自分が甘かったんです。両チームの選手は必死、そして両監督も全責任を負って戦っているんです。

私は試合を評論する立場です。フェアな解説を、と思って来ましたが、自分の気持ちにウソはつけないとも思いました。両チーム全力を尽くし、最後は三高に勝ってほしい。正直な思いでした。

バックネット裏に座りましたが、スコアブックは自重しました。前監督が試合中に何かをメモし続けていると思われては、双方に迷惑だと感じたからです。

3回までに三高が5点をリードします。3回裏、国士舘は福君に2ラン。私は心の中で「まだ取られそうだ」と感じました。三高がリードしていますが、感覚としては同点でした。

それほど、国士舘の圧力は強かった。内野の守りが堅い。特にショートが捕手のサインに応じて1歩、2歩とポジションを変えています。セカンドとも声を掛け合い連動しています。こういう動きは相手とすれば本当に手ごわく感じます。

4回表、三高は大量6点を追加。そして9点リードの5回無死一、二塁。三木監督のカラーが出たように映りました。3番二宮に打たせ、さらに突き放して行きます。

きっと、私なら二宮にバントのサインだったと思います。犠打で二、三塁とし、確実にコールド勝ちへの布石を打つのかなと。そこを打たせたところに、三木監督の二宮への信頼の高さが透けて見えました。

打ち勝つと、打線は活性化します。それが国士舘相手であれば、4回戦以降へ大きな弾みがつきます。

後任を託した三木監督と、教え子たちが躍動してつかんだ勝利です。私はしっかりバトンをつなげたなと思いました。新生三高の夏初陣は、強敵国士舘戦だったからこその、渾身(こんしん)の打ち勝つ野球となりました。

今は勝敗に関係なく、両チームにねぎらいの思いがあるだけです。持参したタオルは汗をたっぷり含んでいました。楽に見るなんて、自分にはできないと、よくわかりました。(日刊スポーツ評論家)