高校通算140本塁打を誇る花巻東(岩手)の佐々木麟太郎内野手(3年)が、米国の大学進学を決断した。26日のドラフト会議で目玉候補とされていたが、12日が提出期限のプロ志望届を出さない意向を示し、米国行きを明言。高校最後の公式戦となった鹿児島国体の履正社(大阪)戦は1-9で敗れ、3打数無安打1四球で幕を閉じた。

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佐々木麟太郎が道なき道を歩む。高校ラストゲームを終え約30分後。大勢の報道陣を前に晴れやかな表情で力強く言葉を紡いだ。「現段階ではプロ志望届は出さずにアメリカの大学に行くということを考えています」。進学先は未定だが、9月に視察した名門バンダービルト大を含む複数の候補から決める方針。花巻東OBのブルージェイズ菊池、エンゼルス大谷からのアドバイスも渡米する1つの要素になったという。

プロ志望届を提出すればドラフト1位指名が確実視されていた。だが、ドラフト上位候補としては異例の米大学進学を選択。「見たことないところでやれるのはすごいワクワクするものがあった」。人としてさらなる成長も目指す。

高校入学後から大きな注目を集めてきた。佐々木洋監督(48)は父として「(野球を)静かにやらせたい」意向があるという。「かわいい子には旅をさせろじゃないですけど、ずっと私のそばで育ってきて、1回離してもいいかなと思うのと、安心して先輩方(菊池や大谷)もいて、サポートしてくれる人たちもいるというのはあります」。米国の大学は秋入学が一般的。高校卒業後は半年ほど「浪人期間」が生じ、今後は練習場所と英語を勉強するところも探すことになる。

「麟太郎」の名は佐々木監督が尊敬する勝海舟の幼名だ。初めて日本船で太平洋を横断し、渡米した人物で、佐々木麟は「今はアメリカに旅行をしようと思えば飛行機で行けますが、当時は相当な覚悟と自分の命をかけないと行けなかったし、切り開いていった方。この名前も誇りに感じています」。自身も前例のないことに挑戦する。

先輩の菊池や大谷のようにメジャーで活躍する憧れはある。それでも「アメリカの大学でまず結果を出さないと、まだ次のことは考えられないです」。世代屈指のスラッガーが、並々ならぬ覚悟で海を渡る。【山田愛斗】

◆米国の大学野球 全米大学体育協会(NCAA)のディビジョン1(1部)だけで約300チームが所属。大まかな地域ごとに20以上のリーグがあり、各大学は年間60~75試合の公式戦を行う。上位8チームが6月にオマハで開かれる「カレッジワールドシリーズ」に出場。米国では高校野球より人気があり、今年は過去最多の39万人(1試合平均2万4600人)の観客を集めた。最多優勝は南カリフォルニア大の12度。MLBのドラフトには4年制大学では3年生を修了、または21歳になった時点で指名対象となり、4月生まれの佐々木麟は26年ドラフトで対象になる。

◆勝海舟の渡米 勝は1860年(万延元)1月、日米修好通商条約の批准書交換のため、幕府使節の1人として品川から咸臨丸で出発。船にはジョン万次郎、福沢諭吉らも乗り込み、同2月に米サンフランシスコに到着。米国滞在中には政治、経済、文化など先進国の文明に触れ、同5月に帰国した。