<高校野球福島大会:小高工6-3日大東北>◇24日◇準々決勝

 福島第1原発から20キロ圏内の小高工が日大東北を下し、2年連続の4強入りを果たした。8番吉田裕貴内野手(3年)が、2回に同点打、3回に勝ち越し打と3打点をたたき出した。

 伏兵の一振りで、4強切符を手にした。1-1の4回2死一、三塁。小高工・吉田の打球が、左中間を割る。無我夢中で二塁に到達すると2者が生還し、ベンチ、三塁側応援席のボルテージは最高潮に。片山龍監督(35)は「あそこでバッと盛り上がった。毎試合ヒーローが出てきて、良い状態で上にいける」と手放しでたたえた。

 選んだ道は正しかった。原発事故の影響によるサテライト制度で、部員は二本松工、相馬東に分かれている。全員がそろうのは週末だけ。平日の練習を共有するために、3年生は15人全員で二本松工に進んだ。「わがままを聞いてくれて感謝してる」と吉田。息子の野球のためだけに、吉田家は南相馬市から二本松市へ引っ越した。

 「天国のおじいちゃんに、良い報告ができた」(吉田)。母一美さん(46)は、震災で亡くなった祖父昌亀(まさき)さん(享年75)の遺影を持参していた。「ずっと持ってきてたけど、くるんでいた布を初めて外したんです。シード校相手だから。父も喜んでると思います」。4回戦まで打点ゼロの男は、大一番で2安打3打点と覚醒し「やっぱり何かあるんですかね」とほほえんだ。「レギュラーになったら見に行く」と言っていた祖父。昨夏はメンバー外で、直接見せることはかなわなかったが「甲子園に連れて行く」と約束した。

 原発事故の影響が甚大な相双地区最後のとりで。片山監督は「選手は試合の度に成長している。相双地区が少しでも早く復興するためにも、1戦1戦目の前の試合に勝つだけ」と言った。あと2勝。逆境に打ち克って目指してきた甲子園は、手の届くところにある。【今井恵太】