ヤンキースがフィリーズ相手に3勝2敗と王手をかけて迎えたニューヨークでのワールドシリーズ第6戦。この試合で松井秀喜氏は2点本塁打を含む4打数3安打6打点を挙げて日本人初のワールドシリーズMVPを獲得。こんな素晴らしい瞬間に出会えるなんてと心を震わせてシャッターを切った1シーンです。

ポストシーズンになると、レギュラーシーズンと違いカメラマンの数も制限され、また通常は撮影できるフィールドレベルのカメラマン席に入れない事もあります。各社の撮影ポジションはMLBの担当者に決められ、試合中はあまり自由には動けません。私の席はコンコース(1階スタンド席の一番後ろ)の三塁側です。

この試合でヤンキースが勝利すれば、世界一です。松井氏は2回に2点本塁打を放つと、3回に2点適時打。さらに5回にも2点適時打でこの時点で6打点。7回、松井氏が打席に入るとファン達が「M、V、P」とコールを始めます。私ももちろん「松井さんが取るやろ」と思っていました。

ここで最大のミッションです。

MVPを松井氏が取った場合、絶対に必要なのはセレモニーでトロフィーを上げている写真です。それをフィールドレベルで撮ることが必須。

私の席のコンコース三塁側からフィールドに向かうとなれば、一旦コンコースのホーム裏の出入り口に行き、関係者用のエレベーターか階段で地下におります。長い裏の通路を三塁側へひたすら進み、トンネルをくぐるとフィールドです。その間、地下に降りてからトンネルをくぐるまでは一切フィールドは見えません。到着までの時間は約10分から15分ぐらいだと想定。

ただ、トンネルの前には警備員がいる。中に入れる保証もなにもなく、追い返されたうえに撮り逃す可能性もある。

迎えた9回、クローザーのリベラさんがマウンドに上がり、そして優勝の瞬間、松井氏はベンチから笑顔で歓喜の輪に跳び込みました。

「動くなら今しかない。走ろう!」

ところが、体感気温3度ほどの冷たい風がよく抜ける場所で4時間立ちっぱなしだったために、筋肉が固まって思うように動けません。必死な思いで地下に降りてトンネル前に行くとテレビカメラマンや関係者の長い列。「もしかして入れないの?!」とビビるも、じきにトンネル前のドアが開いて10分程ですんなり中に入れました。

フィールドではまだセレモニーのステージを作っている最中で、この時に関係者から松井氏がMVPに選ばれたと聞きました。

ステージ前は、通信社やチームカメラマンのみ。撮影できる場所を探し、選んだのはステージの正面でヤンキースの選手の真後ろ。

「良かった間に合った!」しばらくしてセレモニーが始まりました。

MVPに松井氏の名前がコールされ、ファンや、同僚に向かってトロフィーを高々と掲げる松井氏。祝福する選手たちの声とファインダーから見えた松井氏の姿が今も目に焼き付いています。

こんな素晴らしい瞬間に立ち会えたことに感謝です。そしてまた近い将来、次なる選手の偉業達成の瞬間を撮りたい!【菅敏】

(ニッカンスポーツ・コム/WBBコラム「カンビンの早く観たい撮りたい伝えたい」)