MLBが今季新たに取り組んでいる「マウンドを遠くする」という実験の初期データが、先ごろ公表された。ホームベースとマウンドの距離は1893年から6フィート6インチ(約18・44メートル)のまま不変のものだったが、それを1フィート(約30センチ)離して投手に投げさせるという実験だ。

実験が行われたのはMLBが提携関係を結んでいる米独立アトランティックリーグで、後半戦が始まった8月上旬からスタートした。MLBがこの実験によって目指しているのは、マウンドが遠くなったことで、球をより長く見られるようになった打者を有利にすること。それによって、インプレーの打球を増やし、動きがある面白い野球に変えることだ。

さて、その結果はいかに。実験開始から3週間とまだサンプル数が少ないものの、MLBが期待していたような数値はまだ出ていないという印象だ。リーグの平均打率は2割7分8厘から2割7分6厘と若干ながら下がり、長打率や1試合(9イニング)平均本塁打は若干上がったものの、1試合平均得点は6・73から6・66に下がり、1試合平均三振数は7・67から7・72に若干増加している。

本塁打や三振を減らしインプレーが増え動きのある野球になるだろうという思惑は、少なくとも初期データでは空振りに終わっているといえる。

選手たちの反応はどうか。ワシントン・ポスト紙の記事によると、投手たちほぼ全員が共通して、腕から背中につながる広背筋の張りを訴えているという。

レッズやドジャースなどメジャーで9年プレーし現在同リーグで現役を続けているマット・レイトス投手(33)は記事で「これまで肘と膝を痛めたことは何度もあるが、離れたマウンドから投げた後に感じた痛みは今まで経験したことがないもの」と話している。距離が遠くなったことで、ストライクを入れるためにリリースポイントを体から遠く前に出すよう変えたため、これまでとは違う力がかかっている可能性も指摘していた。「自分は92~94マイル(約148~151キロ)程度の球速だがそれでも異変が出るので、100マイルを超える球を投げる投手にとっては大きな影響が出るのではないか」と話している。

マウンドが遠くなったことで、投球パターンにも変化があった。変化球はほとんどがホームベースの手前でワンバウンドしてしまうため、投手が速球ばかり投げるようになっているという。オフシーズンにじっくり調整すればこの点は克服できるかもしれないが、シーズン中の変更にはほとんどの投手が対応できなかったようだ。本塁打数が増えたのも、これが影響しているのだろう。

こうして実験は今のところ期待した結果が出ていないが、これが果たしてMLBでも導入されるのか。今後が気になるところだ。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)