エンゼルスの守備の要、アンドレルトン・シモンズ遊撃手(30)はユニークという言葉がよく似合う。

8月下旬のアストロズ戦。深めの守備位置にいた。投手の横を抜けたゴロは当たり損ないのボテボテで内野安打となりそうだったが、シモンズは打球に対して全力疾走し、素手で捕球。勢い余ってグラウンドに倒れ込みながら、一塁へ送球した。地面すれすれからアンダースローのように投げ、ストライク送球。間一髪、アウトとした。

どんなに体勢を崩されても、変幻自在の動きでカバーする。その器用さは、グラウンド外でも見られる。

カリブ海に位置するオランダ領キュラソー島出身。第一言語のパピアメント語に加え、オランダ語、スペイン語、英語の4カ国語を自在に操る。米国メディアの問いには流ちょうな英語で答え、通訳はもちろん必要ない。「キュラソーに旅行に来る人たちとコミュニケーションをとるために、子供の頃から多くの言語を教えてもらうんだ」。観光地として発展する島国の教育として、多言語の授業が組み込まれているという。

高校生になってからはフランス語を選択した。今では「あんまり覚えていないなぁ」と苦笑いする。また、現在は同僚の大谷翔平投手(25)と水原一平通訳との会話の中で、日本語も学ぼうとしているが「6つ目の言語になるけど、すごく難しいね。だからまずはフランス語をマスターしてからかな」と笑った。

幼少の頃から多くの言語を学んでいた一方で、野球のテレビ放送にもくぎ付けになった。当時、ブレーブスで活躍していたアンドリュー・ジョーンズ氏の姿を見て「キュラソーの野球少年たちに『メジャーでプレーできるんだ』と、扉を開いてくれた。彼みたいになれるんじゃないかと希望をもらった」。キャリアの晩年に楽天でもプレーした同郷のスターは、シモンズにとっての憧れだった。

テレビ観戦するうちにブレーブスファンになり、自身も10年のドラフト2巡目で同球団に指名された。16年からはエンゼルスでプレーし、今年7月28日、メジャー通算1000本安打を達成。キュラソー島出身の選手では通算1933安打のジョーンズ氏に続く2人目の快挙だった。「彼がやってきてくれたことは、僕らにとってすごく意味のあることだった」と同氏を敬い続けるシモンズ。小さな島で夢を抱いた少年は、メジャーを代表するトップ遊撃手になった。【MLB担当=斎藤庸裕】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「ノブ斎藤のfrom U.S.A」)