「常勝チームに名捕手ありき」は、おそらく間違いないような気がします。

ワールドシリーズ終了後、メジャーのストーブリーグが“開幕”しましたが、今オフは、少しばかり例年とは違う動きを見せています。過去数年は「特A」クラスのFA(フリーエージェント)選手の動向が定まらず、市場全体の動きが停滞し、大物選手でも越年する傾向が多く見られました。ただ、今オフは比較的に安価とみられている捕手市場がその先陣を切って激しく動いています。

かつてドジャースなどでも活躍した強打のヤスマニ・グランダル(ブルワーズFA)がホワイトソックスと4年総額7300万ドル(約80億円)で契約したのを皮切りに、トラビス・ダーノー(レイズFA)がブレーブスと2年総額17億6000万円で移籍。この2人の交渉妥結を機に、スティーブン・ボート(ジャイアンツFA)がダイヤモンドバックス、ヤン・ゴームズ(ナショナルズFA)、マイク・ズニーノ(レイズ)が契約を延長するなど、さみだれ式に捕手の移籍先が決まりました。その背景に、捕手の人材不足があることは確かですが、メジャー各球団の補強ポイントへの優先順位、評価基準が変わってきていることも見逃せません。

というのも、かつては守備力以上に強打の捕手に注目が集まり、ジョー・マウワー(元ツインズ=引退)の8年総額200億円をはじめ、バスター・ポージー(ジャイアンツ)の8年総額175億円など「特A」クラスの捕手に高額の資金を投資する傾向がありました。ただ、身体的な負担が多いだけでなく「グラウンド上の監督」とも言われるのが捕手です。近年のデータ偏重もあり、相手打者の傾向をデータで分析したうえでの配球だけでなく、極端な守備シフトをはじめ、実に細かい戦術、戦略を理解することが捕手には求められています。

しかも、最新の電子機器を含め、高度なサイン盗みが広がっていることもあり、防止策としてバッテリー間のコミュニケーションは、より複雑化しています。となると、たとえ「強打」でも守れない捕手では、対応にも限界があるのが実情です。打撃は少しばかり力不足でも、安定した捕球技術を持ち、状況判断が的確で、失点を防げる女房役は欠かせない。そんな危機感が、今オフの捕手市場の裏側にあるとすれば、今後のメジャー球界が変わっていく一端になるのかもしれません。実際、捕手出身の監督が、メジャーに多いことも、おそらく偶然ではありません。

世界一まで上り詰めるためには、剛速球の先発投手、中軸を任せる長距離砲も、確かに必要でしょう。その一方で、ダイヤモンドの要の捕手に真剣な目を向けられるチームには、確かな戦略眼と同時に、期待感を覚えます。【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「四竈衛のメジャー徒然日記」)