【カンザスシティー(米ミズーリ州)=四竈衛】30年ぶり2回目の世界一を目指すロイヤルズが、延長14回の末にメッツにサヨナラ勝ちした。試合前、先発エディンソン・ボルケス投手(32)の父が他界。訃報を知らぬまま6回3失点と踏ん張った右腕のために、ロ軍はワールドシリーズ(WS)史上最長タイの14回、史上2位となる5時間9分の熱戦をもぎ取った。第2戦は28日(同29日)、ロ軍クエト、メ軍デグロムの先発で行われる。

 絶対に負けるわけにはいかなかった。延長14回裏無死満塁。4番ホスマーの犠飛でサヨナラ勝ちした瞬間、ヨースト監督は喜び以上に、ホッとした表情を浮かべた。試合前、ロ軍内に走った突然の訃報。当初、大半の選手には伏せられていたが、試合が進むにつれて状況は理解され始めていた。日付が変わった14回、同監督は同点本塁打を放ったゴードンに言った。「ボルケスのために、この試合を勝とう」。ロ軍にとって、この一戦はWS初戦以上に重みを持っていた。

 華やかな大舞台の裏で、ロ軍ベンチには複雑な感情が交錯していた。試合開始の約2時間前、ムーアGMの元に突然、ボルケス夫人から連絡が入った。ボルケスの父ダニエルさんが、母国ドミニカ共和国で心臓疾患のため、63歳で息を引き取った。ボルケスにとっては、WS初先発。家族の願いは、訃報を知らせることなく念願のマウンドに送ることだった。首脳陣は家族の意向を尊重。「とてもタフなことだった。WS第1戦で先発する前に知らせるなんて不可能だった」(ヨースト監督)。ただ、もしボルケスが登板前に知った場合に備え、第4戦に先発予定のヤングに代替先発する可能性を伝えていた。

 延長12回から救援したヤングには、登板の重みを痛いほど感じていた。自らも9月26日に父を亡くした。悲しみを乗り越え、翌27日に登板し、白星を挙げた。「その時のことが頭をよぎったよ」。終わりの見えない展開で、3回無安打無失点。サヨナラ劇へ導き、悲痛な右腕へ勝利を届けた。

 6回を投げ終えた直後、訃報を知らされたボルケスは、試合中に球場を離れ、母国へ向かった。それでも、試合直後には同僚に携帯メールを送信した。「勝ってくれてありがとう」。昨年、あと1勝で逃した世界一への第1歩は、劇的かつ感傷的だった。