マリナーズ球団会長付特別補佐兼インストラクターのイチロー氏(49)が18日、インスタグラムで「悩める大人の相談ライブ『イチ問一答』」を発信した。オリックスグループ公式アカウント「SMILE ON」に寄せられた仕事、転職、独立、恋愛、結婚、離婚、人間関係などの悩みに独自の視点で回答した。司会は住吉美紀氏が務めた。

--◇--◇--◇--

質問「甘い自分に活を入れてほしい。副業をやりたいが、毎日できずに3日坊主で終わってしまう。だらだら寝てしまう」

イチロー氏「聞いて多くの人が思ったと思うけど、まずは本業頑張れ。じゃないの」

質問「風景写真を撮りたくて一眼レフのカメラを買おうと思う。初心者ですが、最初からいいカメラを買うべきか、それとも上達するまで安いカメラで我慢すべきか」

イチロー氏「カメラのことはまったく分からないが、最終的には一番いいものを買ってほしい。どの世界でも同じ。僕だったら野球ですけど。初心者でそれは難しいことなんでしょ。技術的に。その時にあまりに機械と自分の求めるレベルが違うと、上達している感触が得られない。それはまずいと思う。手が届く、技術に見合ったもので徐々にレベルが上がっていく。それは手応えを感じられていいと思う。趣味で持つのだったら、一番いいもので、眺めているだけで幸せ、というのもいい。徐々に、がいいと思う。人間は手応え、達成感とか満足感があればあるほどいいと思う。一番いいものを買って満足は違うと思う。自分の技術が追いついてくることで、満足を味わってほしい」

住吉氏「イチローさんもそうやって道具と付き合ってきた?」

イチロー氏「僕は小学5年生までは、毎年ぼろぼろになるレベルのグラブでした。毎年、新しくなるのですが、それでは道具に対する愛着もなかなか生まれない。小学6年生の時に、軟式の野球でしたけど、硬式の一番いいグラブを買ってもらった。感動しちゃって。その時のグラブの香りを忘れないし。ずっと使いました。枕元に置いて。しばらく。それからですね。道具に大事をする気持ちが強く芽生えたのは。最終的にいいものを持つのは、ものすごく大事なこと」

住吉氏「道具に愛着が生まれると、スキルや技はよくなりますか、関係ありますか?」

イチロー氏「関係あります。大事にするんですよ。プレーも。だから1つのゴロを捕る、フライを捕るが、自分に染み込んでくる。どうでもいい道具を使っていると、それが遅い。それが気づけない。大事にするってすごく大事です」

質問「大好きなスポーツがあるが、続けるのが年齢を重ねて続けるのがつらくなってきた。どうやって老いと向き合っていけばいいか」

イチロー氏「人は老いますよ。生きるとは老いること。生まれたからにはそれが宿命。好きなスポーツができなくなる失望感とか喪失感とか絶望感とかって、大変ですよ。しばらく時間がかかる。認めるには。でも、体はどうしたって、そうなっていく。だけど心というか気持ちは、何か張りがある生き方をしていれば元気なままでいれる。僕は野球と同じ情熱を注げるものがあるかどうか問われると、今はない。それに向かって行けた自分がある。何か見つけてほしい」

住吉氏「老いは感じるか?」

イチロー氏「見た目は老いていく。仕方ない。20代、30代、40代を映像で見ると、こんなに変わっているのかと感じる。それは当たり前。気持ち、心、体の中から出てくるエネルギーを失ってしまうと、ネガティブになって、沈んでしまう。それはできるだけ短くしたい。何かに夢中になっていれば、この人元気だなとか、陰と陽とかあるが、それは持っていてほしい。それが何かは人それぞれですが、何か見つけてほしい」

質問「マイナー競技ですが、年齢的に今年引退予定です。まだ現役選手に勝てますが、新しいことにチャレンジしたい気持ちもある。イチローさん引き際の美学と引退後のモチベーションを教えてほしい」

イチロー氏「引き際の美学という感じではない。引退して間もなく4年になる。この方を気軽に(背中を)押せない。僕のケースは、後から分かることなんですが、2019年3月に引退した。19年の秋から今も続く、制限された不自由な生活。あそこでやめてなかったら、絶対どこかでやりたいと(考えたと)思う。あそこでスパッと東京ドームで終わる決断をしたら、自分でコントロールできない悪いことがいっぱい起きて、やめられなかった。今、振り返って、引き際は大事だと思う。難しいけど、思い切ってしました。その後の野球に迷いなく入っていけた。1歩踏み出せた」

住吉氏「コロナ禍とか予見できなかった中で、引き際が今だと分かった理由は、きっかけは?」

イチロー氏「今だから分かったこと。あのタイミングで日本で開幕する。僕は日本で育ててもらったし、それがベースでアメリカでできたという気持ちが強かった。最後は東京がいいんじゃないかなと。お知らせすることではないので、近い数名だけ(に伝えた)。ゲーム終わって、ほとんどの人が球場に残ってくれて、『イチロー、お前、出て行かなきゃと誰も帰ってくれないよ』とチームメートに言われて。『マジか』となって球場を1周したけど。そんなこと、分からない。人の気持ちだから。あれ以上の辞め方は僕にはない。完璧なんですよ。引退会見で『後悔なんてあるわけがない』と言った。あの終わり方だから。引き際、終わり方は大事だと思う」

住吉氏「引退後のモチベーションを教えてくださいと」

イチロー氏「引退後のモチベーションは、今取り組んでいるのは高校野球だったり、この前は中学だったり。プロ野球に入る前の野球が大好きな子どもたちと、僕はまだ普通に動けるし。彼らの将来に何かきっかけが作れたらうれしい。それが大きなモチベーション。ほとんどが確率的には野球選手にはなれない。でも触れ合っている1日、2日でも、その後、手紙をもらうと、うーんと(胸が熱く)なりますよ。そんなプランは全然なかったんですけど。ある学校の応援を見て、高校野球が好きになってというのがきっかけでした。厳しい言い方ですが、プロ野球選手は自分でやっていかないと。教えてくれる人もたくさんいる。中学生、高校生はこれから可能性が無限大なので、そこと触れ合うのは僕の今の最大のモチベーションです」

質問「もうすぐ入社5年目が終わろうとしている。最近、縁もゆかりのない営業所に異動になった。業務内容が変わり、モチベーションが保つのが難しい。いろんな経験を積めると前向きに捉えようとしているが、会社からいいように使われているだけじゃないかとネガティブになってしまう。イチローさんは仕事として野球に向かうとき、どうモチベーションを上げていたか」

イチロー氏「なかなか上がらない。難しいです。困難にあたった時、僕は試されていると思っていた。また試されているな、誰かにと。後からチャンスだと思える。向き合っている時はこれチャンスきたと思えない。未来になって思えること。踏ん張ってほしい。踏ん張って、いい方向にいけば、あの時はこうだったと分析ができる」

--◇--◇--◇--

すべての回答を終えたイチロー氏は「生きるとは悩むことだと思う。大人は悩みます。僕も悩む。感情を出さないだけ。そうやって向き合うのか」と振り返った。

【関連記事】イチロー氏悩める大人に恋愛指南「追いかけると遠のく」結婚生活は「ウチはお互い静かに切れる」

【関連記事】イチロー氏が大人の悩みに回答「サボってしまう」に「高校時代はサボることしか考えてなかった」