エンゼルス大谷翔平投手(28)とアスレチックス藤浪晋太郎投手(28)が1日(日本時間2日)に、いよいよメジャーの舞台で対戦する。開幕投手を務めた大谷は2戦目はDHで出場する見込みで、藤浪は先発でメジャーデビューを果たす。

両雄の“ファーストコンタクト”は12年のセンバツ初日。花巻東の大谷は4番投手、大阪桐蔭の藤浪が9番投手で先発。2回に大谷が右翼へ先制本塁打を放つも、試合は9-2で大阪桐蔭の勝利。藤浪は12奪三振で完投勝利、大谷は11三振を奪うも8回2/3を投げ9失点だった。当時の紙面原稿を復刻版としてお届けします。

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怪物の春が、あっけなく幕を閉じた。第84回選抜高校野球大会(甲子園)が開幕し、花巻東(岩手)が2-9で大阪桐蔭に敗れた。「ビッグ3」の1人、大谷翔平投手(3年)が8回2/3を7安打9失点(自責5)。打っては先制本塁打を放ち、投げては最速150キロを計測し、11三振を奪ったが、7カ月半ぶりの公式戦登板で11四死球と制球が乱れた。初戦で注目された「ビッグ3」の直接対決は、2失点完投の大阪桐蔭・藤浪晋太郎(3年)に軍配が上がった。

 

大谷の握力は、もう失われていた。9回表2死二、三塁。暴投で7点目を献上し、7番水谷には頭部死球。完投目前、173球でマウンドを降りた。指先が黒く焦げるほどの熱投だったが、8回2/3を7安打11四死球で9失点。「実力不足です。やってきたフォームで投げられず、試合中に修正できなかった。出来は2、3割。自分のせいで負けました」。試合後の通路では唇をかみ、引き揚げる藤浪の後ろ姿を見送った。

良くも悪くも大谷中心だった。まずは4番打者として2回表にソロ本塁打を放つ。116キロのスライダーを懐深く引き込んでフルスイング。右中間の外野席に高校通算37本目を突き刺した。投げては5回まで2安打6Kの無失点。最速150キロも投げ、ネット裏のスカウト陣も絶賛していた。

しかし、悪夢のシナリオは始まっていた。5回終了時点で85球。昨年7月の負傷後、実戦で投げたのは79球が最高で「6、7回から握力がなくなってきた」。2-1の6回表に外角高め126キロのスライダーを痛打され、逆転の2点二塁打を浴びる。さらに7回2死三塁から相手の4番田端に左越え2ランをたたき込まれた。高校入学後、公式戦で本塁打を浴びるのは初めて。これも、打たれた球は決め球スライダーだった。

間に合わなかった。公式戦の登板は昨年8月7日の甲子園1回戦(対帝京)以来、227日ぶり。左座骨の骨折、スタミナ不足に加え、フォームも理想とかけ離れていた。1月に投球再開した時、佐々木洋監督(36)は目を疑った。腕が後ろに入りすぎ、踏み込む足がインステップ。美しく、しなやかだったフォームが、長すぎたブランクで見る影もなかった。高校入学後に矯正した、中学時代の我流の型に戻っていた。この試合も、悪癖のインステップが出た終盤に力尽きた。

決め球のスライダーも「再矯正の中で横投げになってしまう」(佐々木監督)と禁止され、今月8日の練習試合で解禁したばかり。左座骨も、実は完治していなかった。2月下旬のエックス線検査。骨が完全にくっついていなかった。本人は「痛くない」。しかし再発の危険はゼロではない。大会前、追い込み切れなかった理由の1つになった。

「負けた実感がない。もう終わったのか…」。注目された藤浪とのビッグ3決戦は予想外の大差に終わった。まだ夏はあるが、切り替えられない。誰よりも結末が信じられないのは、大谷自身だった。【木下淳】

▽中日中田スカウト部長 大谷の打撃はトップも含めて素晴らしい打ち方。投球は六~七分の出来だから伸びしろがある。身のこなしも脚力もセンスもすべてを備えている。

▽オリックス古屋編成部国内グループ長 テクニックは大谷の方が上。ステップが狭いからばらつきもあるけど、今の段階では十分。打撃も変化球をしっかり狙って打った本塁打だった。

▽阪神葛西スカウト 大谷くんは素材として見ている。ランニングも打撃もフィールディングも器用で格好いい。夏までにバランスを調整し、どう成長するか。

◆2ケタ奪三振で2ケタ与四死球 花巻東・大谷は11奪三振、11与四死球。延長戦を除き1人の投手が奪三振、四死球ともに2ケタは、98年に寺本四郎(明徳義塾)が2回戦の京都西戦で11奪三振、10四死球で2安打完封勝ちして以来、大会14年ぶり。

○…大阪桐蔭の藤浪が、12個目の奪三振で初戦突破を決めた。9回2死一、三塁。大量リードは背負っても、最後の143球目まで力を振り絞って、両腕でガッツポーズをつくった。「先に点を取られて、流れを持って行かれたのに打線が打って逆転してくれた。自分は、攻める気持ちを思い出しました」と話した。

2回、花巻東のエースで4番、大谷との初対決。抜けたスライダーを右中間スタンドに運ばれた。4回も先頭・大谷への四球から2点目を失った。東大阪大柏原に逆転負けした2年夏の大阪大会決勝、天理(奈良)に逆転負けした昨秋の近畿大会準々決勝も、いったん点を失うとずるずる追加点を奪われた。ここ一番でのもろさを克服しなければ、前進はない。試練の展開で、支えになったのはライバルの投球だった。

「大谷君は得点圏に走者を背負ってもそこから粘り強く投げていた。そういう投球を自分もしなければと思った。冬の練習メニューの中で、あと1つ、あと1本と粘れる練習をしてきたことを思い出しました」。5回からは最速150キロをマークしたストレートに加え、冬に練習したカットボールも要所で使った。5~7回まで完全に抑えた。

昨年末、西谷浩一監督(42)から「来年のセンバツに出ることが出来たなら、藤浪の人生を左右する大会になるよ」と言われた。「素晴らしい投手と投げ合うことは自分を成長させてくれることを知りました」。人生を変える大会が始まった。【堀まどか】

▽西武中村(大阪桐蔭OB)逆転を信じていました。1回戦を突破したので、このまま優勝を目指してほしいです。

▽西武菊池(花巻東OB)怪物対決が見られて良かったです。本当は優勝してほしかったですけど、夏があるので気持ちを切り替えて日本一を目指して頑張って下さい。

(2012年3月22日付 日刊スポーツ紙面から)※敬称、記録やデータなどは当時のものです