<2000年12月2日付日刊スポーツ紙面から>

 【シアトル(米ワシントン州)11月30日(日本時間1日)=四竃衛】マリナーズ・イチロー外野手(27)が、契約翌日からいきなり本拠地で練習することになった。この日、正式契約。異例の日米マスコミ200人の前で会見に臨み「まさに映画の世界。夢のような気持ち」と感激に浸った。今日1日(同2日)にはセーフコフィールドで単独トレを開始。入団発表後はNBA(米プロバスケットボール)で始球式を務めるなど異例ずくめの「夢の1日」に浮かれることなく、マ軍の一員として始動する。

 

 電光掲示板に映し出される自らの映像を、イチローは夢心地で見つめた。弓子夫人、マ軍フロント首脳らと並んで本拠地セーフコフィールドに足を踏み入れると、喜びはじわじわとわいてきた。「フィールド・オブ・ドリームス?

 まさにその通りです。初めてグラウンドに立ったわけですが、まさに映画の世界のようでした。あれだけのセレモニーで歓迎していただいて、夢のような気持ちになりました」。

 いつもは冷静な男が感激するのも無理はない。グラウンドには日米マスコミがカメラ15台、総勢200人で待機。さらに球団職員約100人がスタンドから大きな拍手で出迎えた。バックスクリーンには日本語と英語で「イチロー選手、弓子さん、ようこそシアトルマリナーズ

 セーフコフィールドへ」の文字。イチローのプレーのハイライトVTRも映し出された。また「スター・ウォーズ」のテーマ曲に合わせて、わざわざ開閉式の屋根がオープン。公式戦と同じ英語の選手紹介に続き、最後は日本語で「夢の実現へ

 大きな第一歩

 がんばれ」のメッセージが球場に流れた。

 憎いばかりの入団セレモニーの演出に感激したとはいえ、浮かれてばかりはいられない。今日1日からは、本拠地セーフコフィールドでウエートトレなどを主体とする自主トレを開始することを決意。報道陣シャットアウトで「マリナーズ・イチロー」として始動することになった。球場の印象を聞かれた際にはメジャーの野球に挑む姿勢を披露。「とても広い球場ですし、この細い腕で本塁打を打てるとは思えない。理想を言えば、野手の間を抜いて、あわよくば外野の間を抜いて二塁打、三塁打を打てればベストだと思います」。既に自らのスタイルを見定めており、はやる気持ちの表れが異例ともいえる契約翌日始動となったに違いない。

 米国で不安な点を聞かれても「野球場以外の環境です」とグラウンドでの心配はおくびにも出さなかった。日本人初の野手として注目される重圧があるはずだが、日本の野球ファンに対しても、ひと言だけメッセージを送った。「しっかりと見ていてください」。夢が実現した喜びと、揺るぎない自信。周囲から期待される以上に、イチローは自分自身の将来に期待しているようだった。

 

 ☆入団会見一問一答☆

 --とりあえず、ごあいさつを

 イチロー

 今日は自分と家族にとってもっともすばらしい日になりました。3歳から野球を始めて以来、これまで頑張ってきましたが、ここ数年間、世界中からすばらしい選手が集まっているMLBのユニホームが夢になっていました。その夢が周りの方の配慮で夢をかなえられたことを感謝したいと思います。しかも、それが自分が特別な思いを寄せていたマリナーズだった。今の喜びと興奮を自分のエネルギーにして、勝利に貢献していきたい。

 --対戦したい投手は

 イチロー

 すべてのことが初めてなのでだれというものではないです。投手だけでなく、野手もそうですし、ほかの球場も見てみたいし、いろいろなことを見てみたいです。

 --昨年、マ軍春季キャンプに参加したことは今回の決断に影響したか

 イチロー

 あの時は2週間強の参加でしたが、日本のキャンプとはまったく違うと思いました。極端に言えば違うスポーツをやってるんじゃないかと思うほどの衝撃がありました。ただ、あれでマリナーズに対する思いが強くなったのも事実です。

 --任天堂のサポートがあったが

 イチロー

 小学生の時から任天堂のゲームをして育ったので、何か縁があるなと思いました。

 --グリフィー(レッズ)は今はいないし、A・ロドリゲスが(FAで)残るかどうか分からないが

 イチロー

 グリフィーが移籍した時点で僕がマ軍に来ることは分かってなかったですが、ひとりのファンとして頑張ってほしいと思います。(ロドリゲスとは)もちろん一緒にプレーできればいいと思いますが、それぞれの生き方があると思うので、彼の決断に対しては尊敬したいと思います。

 

 ◇佐々木でギャグ

 佐々木さん、お手柔らかに--。イチローが入団会見の場を借りて同僚となる佐々木にメッセージを送った。酒豪で知られる佐々木との付き合いについて「佐々木さんはお酒をたくさん飲むので、それに付き合わなくてもいいというのを契約に盛り込めば良かったかな」と笑った。もちろん、これまでも助言を受けてきた間柄とあって、イチロー独特のジョークで、米マスコミの大爆笑を誘った。酒の付き合いはともかく、来季は2人の活躍がマ軍の成績を直接左右するだけに、地元メディアも「佐々木&イチロー」の強力タッグ誕生に期待を寄せている。

 

 ◇首脳陣もホッ

 イチローの正式契約を終えたマリナーズ球団首脳も一様にホッとした表情を浮かべた。11月に来日して交渉にあたったハワード・リンカーン最高経営責任者は「日本での報道もすごかったが、それ以上に日本のファンの反応が大きいのに驚いた」と、あらためてイチロー人気を痛感。ギリックGMは「昨年来、左打者が欲しかったが、世界でのベストの左打者を獲得できて、とてもワクワクしている。彼には、リラックスして楽しんでほしい。それが第一だと思う」と満足そうな表情だった。

 

 ◇大役パスに興奮

 マリナーズ・イチローが「職場」の野球場よりひと足先にシアトルのファンにお披露目され、大喝さいを浴びた。入団会見後、シアトルで行われたNBA公式戦「スーパーソニックス対レーカーズ戦」で始球式を務めた。試合前の国歌斉唱、選手紹介後が出番だった。「背番号1、ICHIRO」と刻まれたSソニックスのユニホームに身を包み、コート中央で審判にパスをする大役をこなした。

 場内アナウンスでは「シアトルのスポーツコミュニティーに新たに加わったプロスポーツ選手」と解説された後、「ニュー・マリナーとなるイチロー・スズキ」として紹介された。イチローへの歓声は監督紹介やスター選手のペイトンへの声援に勝るとも劣らない。約2万人の超満員のファンが、スタンディングオベーションで出迎えるほどの盛り上がりだった。大役を終えたイチローは身長2メートルを超えるNBAのスター選手に囲まれたせいか「エキストラかと思いましたよ」とほおを紅潮させた。総立ちの拍手を受けたことにも「すごく興奮しました」と感想を口にした。高校時代からNBA好きで、当初はプライベートでの試合観戦が目的だったが、思わぬ形でシアトル市民の前に初登場となった。

 

 ◇フル出場に太鼓判ヘッドトレーナー

 マリナーズのヘッドトレーナーがイチローのシーズンフル出場に太鼓判を押した。大阪市内で行われた日本プロ野球トレーナー研究会での講演のため来日中のマ軍リック・グリフィン・ヘッドトレーナーは日本人野手初のメジャー選手となるイチローについて「肉体、精神的な強さは日本で証明されている。体の休め方を覚えれば、162試合出場も絶対大丈夫」と断言した。また昨春キャンプ留学での対面を振り返り「メジャー選手によく話を聞いていた。学ぼうという姿勢がすばらしい」とイチローの積極性にも感心していた。

 

 ◇主な日本選手の入団発表◇

 ◆野茂英雄(ドジャース)=1995年(平7)2月13日ロサンゼルス

 報道陣170人の前で会見。「これぞプロだというピッチャーになりたい」と決意を話した。

 ◆長谷川滋利(エンゼルス)=97年1月14日アナハイム

 ほとんどの質問に英語で返答。

 ◆伊良部秀輝(ヤンキース)=97年5月30日ニューヨーク

 「ワールドチャンピオンになる」と宣言。日本の一部マスコミの質問に「嫌です」と取材拒否の姿勢も。

 ◆吉井理人(メッツ)=98年1月14日ニューヨーク

 報道陣は約100人。バレンタイン監督は「開幕3戦目に先発させたい」。

 ◆木田優夫(タイガース)=98年12月9日デトロイト

 明石家さんまのアドバイスで羽織はかま姿で登場。爆笑を誘った。

 ◆佐々木主浩(マリナーズ)=99年12月18日京都

 任天堂の本社がある京都で入団発表。同社の山内社長は「大リーグのピカチュウになってほしい」。